耳の聞こえと食べものの関係を調べた論文を、4本えらびました。どれも英語の論文です。ここでは、その中身を日本語にして並べます。効く・効かないを決める記事ではありません。どこまでわかっていて、どこからわかっていないのか。それをそのまま書きます。
この記事に出てくる4本
- 野菜や魚の多い食べ方をしている人ほど、あとで耳が遠くなりにくかった、という大きな研究。ただし「食事が原因だ」とまでは調べていません。
- 葉酸のサプリを3年のむ試験。差は出ましたが、とても小さい差でした。
- 耳鳴りにイチョウ葉。12件の試験を集めても、はっきりしませんでした。
- 突発性難聴に鍼。よい数字が出ていますが、そのまま受け取れない理由があります。
はじめに:論文といっても、強さがちがいます
- 試験管や動物の研究
- 細胞やネズミで起きたこと。人でも同じことが起きるかは、まだわかりません。
- 観察研究
- たくさんの人を長く追いかけて、「よく食べていた人ほど◯◯が少なかった」と数える方法です。関係は見えますが、それが原因とはかぎりません。
- くじ引き試験(ランダム化比較試験・RCT)
- くじ引きで2つのグループに分けて、片方にだけ試します。原因と結果に、いちばん近づける方法です。
- まとめて調べたもの(システマティックレビュー・メタ分析)
- 同じテーマの試験を全部集めて、全体を見ます。ただし、集めた試験より確かにはなりません。
野菜や魚の多い食べ方をしている人は、あとで耳が遠くなりにくかった
アメリカで、8万人以上の女性を22年間追いかけた研究です。ふだんの食事に点数をつけて、点数の高い人と低い人で、そのあとの聞こえをくらべました。
- 観察研究
- 81,818人
- 22年(1991〜2013年)
- アメリカ・女性看護師
どんな研究?
何かを飲ませたり食べさせたりはしていません。ふだんの食事を答えてもらい、それを長く追いかけただけの研究です。始めたときの年齢は27歳から44歳でした。
食事には、地中海食・DASH食・AHEI-2010という3つのものさしで点数をつけています。どれも、野菜、果物、豆、魚、精製していない穀物が多く、赤い肉や砂糖の少ない食べ方ほど、点数が高くなるものさしです。
何がわかった?
点数がいちばん高かったグループでは、いちばん低かったグループにくらべて、中くらい以上の難聴になった人が3割ほど少なくなっていました。
たとえば、点数の低いグループで100人のうち10人が難聴になるとします。そのとき、点数の高いグループでは7人くらいだった、という差です。聴力検査のデータがある人だけで見ると、差はもう少し大きくなりました。
元の数字:地中海食で0.70倍(95%信頼区間 0.60–0.82)、DASH食で0.71倍(0.61–0.83)、AHEI-2010で0.79倍(0.69–0.91)。聴力検査データのある33,102人では0.63〜0.71倍。
ここまでは言えません
食べ方を変えれば耳が守れる、とは言えません。健康的な食事をしている人は、たばこ、運動、体重、病院にかかる回数もちがうことが多く、その影響を計算で完全に取りのぞくことはできないからです。
それに、調べたのは女性の看護師さんだけです。男性や、ほかの仕事の人で同じかはわかりません。また、すでに聞こえにくくなった人が食事で戻ったかどうかは、この研究では調べていません。
原文:Adherence to Healthful Dietary Patterns Is Associated with Lower Risk of Hearing Loss in Women. J Nutr. 2018;148(6):944–951.
doi.org/10.1093/jn/nxy058(要旨は無料で読めます)
葉酸を3年のむと、聞こえの衰えが少しだけゆっくりになった
オランダで728人を、くじ引きで2つに分けた試験です。差は出ました。ただし3年で0.7デシベルという、とても小さい差です。
- くじ引き試験(RCT)
- 728人
- 3年(2000〜2004年)
- オランダ・高齢者
どんな研究?
血のなかのホモシステインという物質が高めの高齢者728人を、くじ引きで2つに分けました。片方には葉酸を1日800マイクログラム、もう片方には見た目が同じ偽の錠剤(プラセボ)を、3年のんでもらいます。
本人も、聞こえを調べる人も、どちらをのんでいるか知りません。思いこみが結果に入らないようにするためです。
何がわかった?
会話で使う低い音の聞こえが、3年のあいだに、葉酸のグループでは1.0デシベル、偽薬のグループでは1.7デシベル下がりました。差は0.7デシベルです。高い音のほうには、差はありませんでした。
元の数字:低音域の閾値上昇 1.0dB 対 1.7dB、差 −0.7dB(P=0.020)。高音域は差なし。
ここまでは言えません
0.7デシベルという差は、日常のくらしで本人が気づく大きさではないと考えられます。
それに、この試験が行われたころのオランダでは、食品に葉酸を足すことが禁じられていました。参加者の葉酸の状態は、アメリカの人のおよそ半分だったと書かれています。もともと葉酸が足りている人で同じことが起きるかは、この試験からは言えません。論文を書いた人たち自身も「葉酸を強化している国での確認が必要だ」と述べています。
すでに聞こえにくくなった人を治す試験でもありません。
原文:Effects of Folic Acid Supplementation on Hearing in Older Adults: A Randomized, Controlled Trial. Ann Intern Med. 2007;146(1):1–9.
doi.org/10.7326/0003-4819-146-1-200701020-00003
耳鳴りにイチョウ葉。12件の試験を集めても、はっきりしなかった
よく話題になる素材です。世界中の試験を集めて評価しているコクランという団体が、まとめて調べました。
- まとめて調べたもの
- 12件・のべ1,915人
- 2022年11月
- 確からしさ:低い〜とても低い
どんな研究?
耳鳴りにイチョウ葉エキスを使った試験を、12件集めました。そのうち11件は、見た目が同じ偽薬とくらべたものです。
何がわかった?
耳鳴りのつらさ、音の大きさ、暮らしのしやすさ。どれについても、偽薬とくらべて意味のある差はありませんでした。重い副作用の報告は、どちらのグループにもありませんでした。
ここまでは言えません
「効かないと決まった」わけではありません。このレビューは、証拠の確からしさを「低い〜とても低い」と評価しています。ひとつひとつの試験が小さく、途中でやめる人が多く、やり方の書き方も足りない、という理由です。
つまり、判断するための材料がまだそろっていない、という意味になります。しっかりした試験が出てくれば、結論は変わります。
原文:Ginkgo biloba for tinnitus. Cochrane Database Syst Rev. 2022;(11):CD013514.
doi.org/10.1002/14651858.CD013514.pub2(コクランは、やさしい要約も公開しています)
突発性難聴に鍼。よい数字は出ているが、そのまま受け取れない
28件の試験を集めた解析です。数字だけ見ると大きいのですが、書いた本人たちが「慎重に読んでほしい」と述べています。
- まとめて調べたもの
- 28件・のべ2,456人
- 2024年
- すべて中国国内の試験
どんな研究?
ふつうの治療(ステロイドなど)に鍼を足したグループと、ふつうの治療だけのグループをくらべた試験を、28件集めました。鍼だけとふつうの治療をくらべたものも含まれています。
何がわかった?
鍼を足したグループのほうが、「効いた」とされた人の割合が1.18倍でした。聴力の改善も、10.7デシベル大きいという数字が出ています。
元の数字:有効率 RR=1.18(95%信頼区間 1.14–1.23)、純音聴力 MD=−10.71dB(−12.52〜−8.89)。
ここまでは言えません
集まった28件は、すべて中国国内の試験でした。やり方の質が低く、患者や調べる人に伏せる工夫(盲検)が足りていません。よい結果の試験ばかりが論文になっている可能性(出版バイアス)も指摘されています。副作用について書いていたのは、28件のうち1件だけでした。
それと、突発性難聴は、なにもしなくても回復することがあります。ですから、くらべる相手の置き方しだいで、数字は大きく変わります。
原文:The efficacy and safety of acupuncture in the treatment of sudden sensorineural hearing loss: A systematic review and meta-analysis. Integr Med Res. 2024;13:101087.
doi.org/10.1016/j.imr.2024.101087(全文が無料で読めます)
4本を並べて見えること
食べ方全体と聞こえのあいだには、なにか関係がありそうです。ただ、「これを食べれば聞こえが戻る」という形で確かめられたものは、この4本の中にはありません。いちばんきちんとした試験である葉酸のものでも、差は3年で0.7デシベルでした。
もうひとつ。同じ「論文」という言葉でも、8万人を22年追いかけたものと、質の低い試験を集めたものが、ここには並んでいます。だからこの記事では、毎回「どんな研究か」と「ここまでは言えません」を書いています。
英語で読んでみたい方へ:よく出てくることば
- randomized
- くじ引きで分けた、という意味です。
- placebo(プラセボ)
- 見た目が同じ、成分の入っていない偽薬のことです。
- double-blind
- 本人も、調べる人も、どちらをのんでいるか知らない、という意味です。
- cohort
- 集団を長く追いかけた研究のことです。観察研究にあたります。
- 95% CI(95%信頼区間)
- 数字のぶれの幅です。倍率の話でこの幅が1をまたいでいるときは、「差があるとは言いきれない」と読みます。
- Limitations
- 論文の終わりのほうにある「この研究の弱いところ」です。ここだけ先に読むのも、ひとつの手です。
この記事は、公開されている論文を読んで日本語にしたものです。診断や治療の助言ではありません。急に聞こえにくくなったときは、早いうちに耳鼻いんこう科へ。持病やのんでいる薬がある方は、サプリメントを含めて、かかりつけの先生に確かめてから取り入れてください。