耳鳴りや難聴に、鍼、漢方、ツボ押し。よく聞く話です。ただ、この分野には、ほかの分野にない事情がひとつあります。偽物を作るのが難しい。薬なら見た目と味をそろえた偽薬が作れますが、鍼は刺されれば分かります。そして耳鳴りは、偽物でも点数が下がる症状です。この2つが重なると、数字の読み方が変わってきます。まず、そもそもどんな研究がどれだけあるのかを数えた地図。つづいて、それを集めて計算し直した2本。そのあとに日本の漢方の試験が2本と、耳のツボ押しの研究が1本。あわせて6本を読みます。

ざっと言うと

  • 耳鳴りへの鍼の研究を106件集めて数えたもの。9割が中国からで、二重盲検の試験は5件でした。そして106件のうち105件が「改善した」と報告しています。
  • 8つのくじ引き試験・504人を集めた解析では、最初に決めた測る項目に差は出ませんでした。あとから見た2つの項目には差が出ています。
  • 2016年の解析は、中国の研究がほぼすべて肯定的で、英語の研究はほとんどが否定的だった、と書いています。
  • 日本の漢方の試験がふたつ。柴苓湯と、牛車腎気丸。どちらも比べた相手との差は出ませんでした。
  • 耳のツボを押す器具を6週間。39人が自分でつけた点数は、始める前より低くなっていました。
  • おまけに、手首のツボと吐き気の話。ツボ押しがきちんと調べられている、数少ない例です。

そもそも、鍼と漢方とツボ押しとは

まず、言葉の整理からです。

鍼は、細い針を体の決まった場所に刺す方法です。その場所をツボ(経穴)と呼びます。この記事に出てくる106件の研究では、119か所のツボが、のべ1,138回使われていました。いちばんよく使われたのは、耳のまわりのツボです。それと、耳から離れた場所のツボを組み合わせる形が多くなっています。やり方でいちばん多かったのは、1回30分、10〜19回、20〜39日かけて行うもの。針は太さ0.30mm、長さ40mmで、刺す深さは30mm以上50mm未満でした。

漢方は、生薬を組み合わせたものです。日本では、医療用の漢方製剤が保険のなかで使われています。この記事に出てくる柴苓湯、牛車腎気丸、釣藤散は、どれも耳の症状に使われてきた処方です。東洋医学には「証」という体の見立てがあって、本来は同じ症状でも人によって処方を変えます。ただし、この記事の1990年の試験は、証を考えずに割り振っています。

ツボ押しは、針を使わずに、指や器具で圧をかける方法です。

そのうえで、この分野をいちばん難しくしていることを書いておきます。

薬の試験なら、見た目も味もそろえた偽薬を作れます。飲んだ人には、どちらか分かりません。ところが鍼は、そうはいきません。刺されれば分かります。

そこで、本人にどちらか分からないようにした試験では、比べる相手に「皮膚を貫かない針」や「ごく浅くしか刺さない針」を使います。ところがここに、もうひとつの問題が出てきます。本物のほうで太い針を深く刺すと、感覚の違いで、本人に見当がついてしまう。だから、こうした試験では細い針を浅く刺すやり方が選ばれがちになります。ふだん行われているやり方とは、少しずれていきます。

そのうえ、耳鳴りは偽物でも点数が下がる症状です。日によって強さが変わり、どこに注意を向けているかでも変わります。比べる相手を作りにくいことと、比べる相手を置かないと分からないこと。この2つが重なっているのが、この分野です。

アメリカの診療ガイドラインは、耳鳴りへの鍼について、質の高い試験がないことを理由に、すすめるともすすめないとも書いていません。イチョウ葉、メラトニン、亜鉛といったサプリメントが「すすめない」に入っているのとは、扱いが違います。

最後に、数字の目安です。耳鳴りの重さは質問票で測ります。よく使われる耳鳴り障害質問票(100点満点)では、12週間の治療のあとで11点動くと、本人が変化を感じる目安とされています。もともとの重さが強い人ほど、また期間が長いほど、大きく動かないと意味があるとは言いにくい、ともされています。

この記事の2本目に出てくる数字は、10.11点です。

出典:Lee KH, Kim MH, Kim J, Nam HJ. Acupuncture for Tinnitus: A Scoping Review of Clinical Studies. Complement Med Res. 2024;31(3):292–301. doi.org/10.1159/000538236(ツボの使われ方、針の太さと深さ、盲検化の難しさ。全文が無料で読めます) / Tunkel DE ほか Clinical practice guideline: tinnitus. Otolaryngol Head Neck Surg. 2014;151(2 Suppl):S1–S40. doi.org/10.1177/0194599814545325(鍼については推奨も非推奨も示されていません。研究費はアメリカ耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会から) / Engelke M ほか Estimation of Minimal Clinically Important Difference for Tinnitus Handicap Inventory and Tinnitus Functional Index. Otolaryngol Head Neck Surg. 2025;173(1):69–79. doi.org/10.1002/ohn.1217(耳鳴り障害質問票は364人で7.8〜12点、12週後の点推定11点。全文が無料で読めます)

研究の数を数えたもの

耳鳴りへの鍼。106件のうち105件が「改善した」と報告していた

症状が良くなったかどうかを判定するのではなく、そもそもどんな研究がどれだけあるのかを数えたレビューです。この分野の地図にあたります。

  • 106件
  • 2023年12月までの文献
  • 英語・中国語・韓国語
  • 2024年

耳鳴りに鍼を使った臨床研究を、7つのデータベースから集められるだけ集めて、内訳を数えたものです。比べる相手のいない研究が11件、くじ引きはしたけれど患者も術者もどちらか知っている試験が90件、本人にも分からないようにした二重盲検の試験が5件でした。

国別では、89.6%が中国からのものです。韓国が3件、イラン2件、イギリス・トルコ・台湾・ブラジル・ドイツ・エジプトが各1件でした。

結果のほうを数えると、106件のうち、改善が見られなかったのは1件だけでした。改善率にして99%です。著者は、比べる相手のいない研究と、どちらか知っている試験では、偏りのために改善率が大きく出る可能性がある、と書いています。二重盲検の5件についても、報告の書き方が整っていないことによる偏りの可能性を挙げています。

その報告の書き方には、鍼の研究のための国際的な取り決め(STRICTA)があります。鍼を使う理由、鍼の詳しい中身、治療の中身、ほかに併せて行ったこと、施術者の背景、対照群と比べた介入の6項目です。106件のうち、この6項目をすべて満たしたものは1件もありませんでした。

元の数字:106件の内訳は単群11件、非盲検のくじ引き試験90件、二重盲検のくじ引き試験5件。89.6%が中国。119のツボがのべ1,138回使用。改善が見られなかったのは1件のみ(改善率99%)。STRICTAの6項目をすべて満たした研究はなし。研究の質は、二重盲検のものも含めて全体に低く、くじ引きの方法、人の集め方、伏せる工夫、測り方についての大事な記載が欠けていた、と書かれています。長く追いかけた結果もなく、人数も少ないとされています。外部からの研究費は受けておらず、利益相反もないと申告されています。OSFに登録あり。

この研究が調べていないこと

鍼で症状が良くなるかどうかを判定したものではなく、どのツボがどう使われているかを調べたレビューです。

集まった研究の大半が中国のもので、ほかの国のやり方は十分に分析できなかった、と著者自身が書いています。

原文:Lee KH, Kim MH, Kim J, Nam HJ. Acupuncture for Tinnitus: A Scoping Review of Clinical Studies. Complement Med Res. 2024;31(3):292–301.
doi.org/10.1159/000538236(全文が無料で読めます)

くじ引き試験を集めたもの

8つの試験・504人。最初に決めた項目には差が出ず、あとから見た2つには出た

では、くじ引き試験だけを集めて計算し直すと、どうなるのか。数を数えた地図の次は、結果の側です。

  • 8試験・504人
  • 2018年9月までの文献
  • 英語4つ・中国語4つのデータベース
  • 2021年

集めたのは、鍼だけを、ふつうの治療・偽の鍼・何もしない場合と比べたくじ引き試験と、ふつうの治療に鍼を足したものを、ふつうの治療だけと比べた試験です。事前に登録もされています。

最初に決めた測る項目は、耳鳴りの大きさを自分で目盛りにつける点数でした。ここには差が出ていません。平均差は1.81点で、信頼区間は−3.69から0.07、pは0.06です。

あとから見た項目のほうには、差が出ました。耳鳴り障害質問票で10.11点、耳鳴り重症度指数で8.36点。どちらも信頼区間は0をまたいでいません。

著者は、集まった試験の質が低く、人数も少ないため、決定的なことを言うには根拠が足りない、と結んでいます。

元の数字:主要評価項目の視覚的アナログ尺度は平均差 −1.81(95%信頼区間 −3.69〜0.07、p=0.06)。副次評価項目の耳鳴り障害質問票(THI)は −10.11(−12.74〜−7.48、p<0.001)、耳鳴り重症度指数(TSI)は −8.36(−8.87〜−7.86、p<0.001)。事前登録はPROSPERO CRD42018108692。

主要評価項目では差が出なかった。副次評価項目では差が出た。ただし集めた試験の質が低く人数も少ないため、結論を出すには根拠が足りない。

——結論より(要約して訳したもの)

この研究が調べていないこと

比べた相手は試験によってばらばらで、偽の鍼と比べたものも、ふつうの治療と比べたものも、同じ計算に入っています。

最初に決めた項目とあとから見た項目では、偶然の影響の受けやすさが違います。

原文:Huang K, Liang S, Chen L, Grellet A. Acupuncture for tinnitus: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Acupunct Med. 2021;39(4):264–271.
doi.org/10.1177/0964528420938380

くじ引き試験を集めたもの

中国の研究はほぼすべてが肯定的で、英語の研究はほとんどが否定的だった

ひとつ前の解析が「決定的なことは言えない」と結んだ理由に、いちばん近いところを書いた1本です。

  • 英語と中国語の5つのデータベース
  • くじ引き試験のみ
  • 比べた相手は無治療・偽治療・薬など
  • 2016年

耳鳴りに鍼(電気を流す形も含む)を使ったくじ引き試験を、英語と中国語のデータベースから集めています。比べた相手は、何もしない場合、偽の治療、薬、基本的な医療です。

著者がまず書いているのは、結果の分かれ方です。中国の研究はほぼすべてが肯定的な結果を報告し、英語の研究はほとんどが否定的な結果を報告していました。

数字を合わせると、鍼のほうがふつうの治療より良いように見える、という形になります。ただし、使っているツボも回数も、中国の研究と英語の研究では違っていました。

方法の弱いところも、多くの試験で見つかっています。とくに中国の研究で多い、と書かれています。著者は、そのために決定的な結論は出せない、としています。

元の数字:中国語と英語の5つのデータベースを検索。集めたのは並行群間のくじ引き試験で、比べた相手は無治療・偽治療・薬・基本的な医療。中国の研究はほぼすべてが肯定的、英語の研究はほとんどが否定的。使用するツボと治療回数にも国による違いあり。方法上の欠陥と偏りのおそれが多くの試験で認められ、とくに中国の研究で多いとされています。

この研究が調べていないこと

なぜ国によって結果が分かれるのかを、この研究は突きとめていません。

2016年に出たもので、それ以降の試験は入っていません。

原文:Liu F, Han X, Li Y, Yu S. Acupuncture in the treatment of tinnitus: a systematic review and meta-analysis. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2016;273(2):285–294.
doi.org/10.1007/s00405-014-3341-7

順番で振り分けた試験

柴苓湯と、ふつうに使われる薬。聴力に差は出なかった

ここから日本の漢方です。低い音が聞こえにくくなる型の難聴で、柴苓湯とイソソルビドという薬をくらべた試験になります。

  • 104人を解析
  • 2008〜2009年
  • 日本
  • くじ引きではない

低音障害型感音難聴で受診した151人が対象です。柴苓湯を1回3g・1日3回のむグループと、イソソルビドをのむグループに分け、最終的に51人と53人を比べています。くじ引きではなく、診断した順に振り分けました。誰がどちらをのんでいるかを伏せた記載はありません。

聴力検査では、柴苓湯のグループのほうがやや改善する傾向がありましたが、統計的な差はありませんでした。自覚症状も同じです。

論文の結論は「柴苓湯はイソソルビドと同様に有効である」となっています。

元の数字:受診した151人のうち、解析されたのは柴苓湯群51人とイソソルビド群53人の計104人。聴力にも自覚症状にも、群間の有意差なし。日本東洋医学会EBM委員会の構造化抄録は、診断した順に振り分けたことと、再診しなかった人を追えなかったことを、研究の質を下げる点として挙げています。

この研究が調べていないこと

差がないことを示すための設計(どこまでの差なら同じとみなすかを先に決めておく形)にはなっていません。

この試験から読み取れるのは、この人数、このやり方では差が見えなかった、というところまでです。

出典:金子達「低音障害型感音難聴に対する柴苓湯の効果」漢方と最新治療 2010;19:233–9.
日本東洋医学会EBM委員会の構造化抄録より。jsom.or.jp(PDF・日本語で読めます)

順番で振り分けた試験

耳鳴りに牛車腎気丸。39人、8週間、1990年の試験

牛車腎気丸と釣藤散という、ふたつの漢方薬をくらべたものです。

  • 39人
  • 8週間
  • 1990年
  • 日本

耳鳴りのある20代から80代の39人を、来院した順に振り分けて、牛車腎気丸か釣藤散を1日7.5g、8週間のんでもらいました。証(東洋医学でいう体質の見立て)は考慮せずに割り振っています。伏せる工夫の記載はありません。

「改善以上」とされた人の割合は、牛車腎気丸で50%、釣藤散で30%。統計的な差ははっきりしませんでした。突発性難聴のあとの耳鳴りに限ると、牛車腎気丸は7人中3人、釣藤散は5人中1人です。

副作用は、それぞれ1人ずつ下痢がありましたが、中止には至っていません。

元の数字:39人、1日7.5g、8週間。「改善以上」の割合は牛車腎気丸50%、釣藤散30%で、統計的な差ははっきりせず。突発性難聴後の耳鳴りでは7人中3人対5人中1人。下痢が各群1人。日本東洋医学会EBM委員会の構造化抄録が情報源です。

この研究が調べていないこと

比べた相手はどちらも漢方薬で、のまないグループも偽薬のグループもありません。

39人という人数で、7人中3人と5人中1人は、1人動けば入れ替わる数字になります。

出典:大西信治郎「耳鳴に対する牛車腎気丸の検討」JOHNS 1990;6:535–9.
日本東洋医学会EBM委員会の構造化抄録より。jsom.or.jp(PDF・日本語で読めます)

1グループを追った研究

耳のツボを押す器具を6週間。39人が自分でつけた点数は、始める前より低かった

ドイツの研究です。慢性の耳鳴りがある39人が、耳のまわりに圧をかける器具を使いながら6週間を過ごし、その記録を集めたものです。

  • 39人
  • 6週間
  • 2021年
  • ドイツ

参加者は平均51歳。耳鳴りとの付き合いは、平均で10年ほどの人たちです。器具のほかに、耳鳴りとの付き合い方についての助言が、50個の中から毎週ひとつ届きました。

この研究で「耳鳴りの大きさ」と呼んでいるのは、機械で測った音の大きさではありません。1日2回、スマホの画面で「いま耳鳴りはどのくらい大きいか」「どのくらいつらいか」を、0から10の目盛りで自分で答えてもらった点数です。答えた回数は、ひとり平均123回でした。少ない人で42回、多い人で371回と、開きがあります。

6週間のあいだに、この点数は下がっていきました。ひとりずつ点数の動きを調べたところ、39人のうち15人で、下がり方が偶然とは考えにくい大きさでした。残りの24人は、そこまでではありません。つらさとストレスの点数も、全体としては下がっています。

くらべる相手は、あとから用意しています。別の研究に参加していた人の中から、年齢と耳鳴り歴の近い39人を選んで、並べて見ています。別の時期に、別のやり方で集められた人たちです。

元の数字:耳鳴りの大きさ d=−0.861、ストレス d=−0.675、苦痛 d=−0.478。あとから選んだ39人との比較で、大きさ p=0.027、ストレス p=0.003(苦痛については示されていません)。dは「同じ人の6週間の変化」を、ばらつきを1として表した数字です。よく言われる「0.8以上は大きい」という目安は、別々の2つのグループを比べたときのものです。39人という人数では、この数字自体にも幅が出ます。外部からの研究費は受けていない、と書かれています。筆頭著者は、この器具を作っている会社の顧問で、報酬を受けています。解析に使われたデータも、その会社から提供されたものです。会社は解析には関わっていない、と論文には書かれています。

この結果は、さらに調べる価値がある。とくに、観察研究につきものの偏りを越えるために、ランダム化した試験が必要になる。

——論文の結論より(要約して訳したもの)

この研究が調べていないこと

くじ引きで2つに分けておらず、圧のかからない偽の器具を使うグループもないため、点数が下がったのが器具のためか、毎週届く助言のためかは分けられません。

6週間、1日2回、自分の耳鳴りに点数をつけるという行為そのものが、感じ方や答え方に影響することがあります。

原文:Auricular Acupressure Combined with Self-Help Intervention for Treating Chronic Tinnitus: A Longitudinal Observational Study. J Clin Med. 2021;10(18):4201.
doi.org/10.3390/jcm10184201(全文が無料で読めます)

この記事に入れなかったもの

読んだけれど、今回は入れなかったものです。

耳鳴りへの鍼と灸を集めた解析と、頭皮に鍼を打つやり方を集めた解析。どちらも本文の2本と枠が重なるため、外しました(Am J Otolaryngol 2023;44(3):103821、doi/Complement Ther Med 2025;88:103129、doi)。

鍼のやり方どうしを、つなぎ合わせて順位づけした解析。どのやり方がいちばんかを比べるには、もとになる試験の質が足りないため、外しました(Medicine 2023;102(39):e35019、doi)。

鍼と、心と体への働きかけを組み合わせた耳鳴りの解析が1本ありましたが、この論文は撤回されています。数字は使いません(Comput Math Methods Med 2022;2022:6764909)。

手首の内関と吐き気のコクランのレビューは、耳鳴りの研究ではないため、本文ではなく参考の欄に置きました。

試す前に

試してみたいものが見つかった場合は、現在かかっている医師に確認してください。服用中の薬との相互作用や体調については、その医師が最も正確に判断できます。

聞こえが急に悪くなった場合は、別の話になります。イギリスの診療ガイドラインは、3日以内に起きた難聴に耳鳴りをともなうときは、24時間以内の受診を求めています。