瞑想が耳鳴りに使われるのは、音そのものを消すためではありません。音への反応のほう、つまり注意がそこへ向いてしまうこと、いやだと感じること、不安になることを変えるためです。耳鳴りは耳ではなく脳の側の話だ、という見方と、ちょうど重なります。では、その瞑想は何に対して確かめられているのか。薬とくらべたらどうなのか。体の指標は動くのか。そのうえで、耳鳴りではどうなのか。前半に瞑想そのものを調べた3本、後半に耳鳴りとの関係を調べた3本、あわせて6本を読みます。
ざっと言うと
- 47のくじ引き試験・3,515人を集めた解析では、不安、うつ、痛みに中くらいの確からしさで改善がありました。効果の大きさは小さめから中くらいです。
- 不安症の276人を、瞑想の講座と抗うつ薬にくじ引きで分けた試験。瞑想は薬に劣らない、という結果でした。副作用でやめた人は、薬で10人、瞑想で0人です。
- 一方で、心拍の揺らぎという自律神経の指標では、19の試験を集めても差は出ていません。
- 耳や聞こえの問題に心理療法を使った15の研究では、終わった直後に耳鳴りの困り度が下がりました。ただし、その差がその後も続いたかは、確かめられていません。
- 耳鳴りの75人を、瞑想としっかりしたリラクセーションに分けた試験では、両方よくなったうえで、瞑想のほうが下がり方が大きく、6か月後も差が残りました。
- もう1本のくじ引き試験は86人が参加し、61人が終えています。両方よくなり、瞑想のほうが変化は大きい、という報告です。
そもそも、瞑想とは
ここで言う瞑想は、マインドフルネス瞑想と呼ばれるものです。やることは、それほど複雑ではありません。呼吸や、体のどこかの感覚に注意を向けます。そのうちに考えごとが浮かんできます。浮かんできたら、それを追いかけずに見送って、また注意を戻す。これを繰り返します。もうひとつ約束事があって、浮かんできたものに良い悪いの判断をつけない、とされています。
医療の場で使われている形は、決まった作りになっています。マインドフルネスストレス低減法(MBSR)は、週1回、8週間の講座です。マインドフルネス認知療法(MBCT)は、そこに考え方への働きかけを足したもの。この記事に出てくる耳鳴りの試験は、どちらも週1回120分を8回、という形で行われています。ひとりで好きなときに座るのとは、少し違うものだと思っておくとよさそうです。
では、耳鳴りにこれを使うのは、なぜなのか。
瞑想は、耳鳴りの音を消すためのものではありません。音のほうはそのままで、音への反応を変えることをねらっています。注意がそこへ吸い寄せられること、いやだと感じること、不安になること、そのせいで眠れなくなること。そちらの側です。耳鳴りは耳の中で何かが鳴っているというより、脳の聞こえ方の話だと考えられていますから、働きかける先としては筋が通っています。
この記事の3本目に出てくる「心拍の揺らぎ」も、説明しておきます。心臓は規則正しく打っているように思えますが、拍と拍の間隔は一定ではありません。息を吸うとわずかに短くなり、吐くと長くなります。この揺らぎが大きいほど、体を休ませる側の神経(副交感神経)がよく働いている、とされています。本人の申告ではなく機械で測れるので、瞑想でここが動くなら、気のせいではない証拠になる。そう考えて調べられました。結果は、差が出ていません。
最後に、数字の読み方です。耳鳴りの重さは質問票で測ります。では、何点動くと、本人が「よくなった」と感じるのでしょうか。
よく使われる耳鳴り障害質問票(100点満点)では、12週間の治療のあとで7.8〜12点、点で言えば11点が目安とされています。別の耳鳴り機能指標では7.3〜9.4点、目安は9点。そしてどちらも、もともとの重さが強い人ほど、また期間が長いほど、大きく動かないと意味があるとは言いにくい、とされています。この記事の5本目に出てくる試験が使ったのは、また別の耳鳴り質問票です。その中国語版について115人で求められた目安は、7.5点でした。
この記事に出てくる、瞑想とリラクセーションの差は、16週後で6.3点、6か月後で7.2点です。
出典:Engelke M ほか Estimation of Minimal Clinically Important Difference for Tinnitus Handicap Inventory and Tinnitus Functional Index. Otolaryngol Head Neck Surg. 2025;173(1):69–79. doi.org/10.1002/ohn.1217(ヨーロッパの耳鳴りセンターでのくじ引き試験から。THIは364人で7.8〜12点、12週後の点推定11点。TFIは359人で7.3〜9.4点、点推定9点。全文が無料で読めます) / Gu H ほか Minimal clinically important difference for the Mandarin version of the Tinnitus Questionnaire determined via anchor-based and distribution-based methods. Health Qual Life Outcomes. 2022;20(1):157. doi.org/10.1186/s12955-022-02072-z(四川大学華西病院の115人。中国語版の耳鳴り質問票について、絶対値7.5点を目安とした。全文が無料で読めます)
47の試験を集めて。不安、うつ、痛みに、中くらいの確からしさがあった
瞑想の計画(プログラム)が何に対して確かめられているのかを、まとめて調べたものです。集める段階で条件をひとつ置いています。比べる相手が「何もしない」ではなく、「何かをする」グループである試験だけを選びました。
- 47件・3,515人
- 2014年
- 18,753件から選抜
- 比べる相手は「何かをする」群
18,753件の文献を読んで、条件に合う47件を選んでいます。比べる相手を「何かをするグループ」に限ったのは、人と会う時間や、期待そのものによる変化を、できるだけ差し引くためです。
マインドフルネス瞑想の計画では、不安、うつ、痛みについて、中くらいの確からしさで改善が見られました。ストレスや心の面の生活の質については、低い確からしさです。
それ以外の項目、たとえば気分の良さ、注意、食習慣、睡眠、体重については、効果がないという低い確からしさか、判断するには根拠が足りない、という評価でした。
元の数字:不安は効果の大きさ0.38(95%信頼区間 0.12〜0.64、8週の時点)と0.22(0.02〜0.43、3〜6か月)、うつは0.30(0.00〜0.59)と0.23(0.05〜0.42)、痛みは0.33(0.03〜0.62)。効果の大きさ0.38は、ばらつきを1としたときの差が0.38ということで、小さめから中くらいにあたります。2012年11月までの文献。研究費はアメリカ国立衛生研究所(NIH)などから。
この研究が調べていないこと
比べた相手は運動、薬、ほかの心理療法、教育の講座などで、何もしない場合とくらべたわけではありません。
耳鳴りは、この解析の対象に入っていません。
原文:Meditation programs for psychological stress and well-being: a systematic review and meta-analysis. JAMA Intern Med. 2014;174(3):357–368.
doi.org/10.1001/jamainternmed.2013.13018(全文が無料で読めます)
不安症の276人。8週間の瞑想の講座は、薬に劣らなかった
瞑想を、実際に使われている薬と正面からくらべた試験です。どちらが優れているかではなく、「薬より悪くないと言えるか」を確かめる設計になっています。
- 276人が参加・208人が完了
- 8週間
- 24週まで追跡
- アメリカ・3施設
不安症と診断された大人を、くじ引きで2つに分けています。片方は、週1回8週間のマインドフルネスストレス低減法(MBSR)という講座。もう片方は、エスシタロプラムという抗うつ薬を1日10〜20mg。
不安の程度は、面接する人が点数をつけます。その人には、どちらのグループかを知らせていません。測るのは、開始時、8週の時点、そして12週と24週の時点です。
この試験では、はじめる前に「この幅より悪くなければ、劣らないとみなす」という線を決めておきました。0.495点という幅です。8週後の点数の下がり方は、瞑想が1.35点、薬が1.43点。群の差は0.07点で、決めておいた線の内側に収まりました。
もうひとつ、差がはっきり出たところがあります。副作用のために途中でやめた人が、薬のグループで10人(8%)、瞑想のグループでは0人でした。研究に関わる好ましくない出来事が1つ以上あった人は、薬で110人(78.6%)、瞑想で21人(15.4%)です。
元の数字:不安の程度は臨床全般印象・重症度(CGI-S)という尺度で測定。開始時の平均は瞑想4.44、薬4.51。8週後の低下は1.35と1.43、群間差 −0.07(95%信頼区間 −0.38〜0.23、p=0.65)。あらかじめ決めた非劣性の幅は −0.495点。参加者の平均年齢33歳、75%が女性。臨床試験登録はNCT03522844。研究費はアメリカ国立衛生研究所(NCATS UL1 TR001409)の支援を含みます。
この研究が調べていないこと
「劣らなかった」は「同じだった」でも「優れていた」でもなく、あらかじめ決めた幅の内側に収まった、という意味です。
対象は不安症のある人で、耳鳴りのある人を調べたものではありません。
原文:Mindfulness-Based Stress Reduction vs Escitalopram for the Treatment of Adults With Anxiety Disorders: A Randomized Clinical Trial. JAMA Psychiatry. 2023;80(1):13–21.
doi.org/10.1001/jamapsychiatry.2022.3679(全文が無料で読めます)
心拍の揺らぎ。19のくじ引き試験を集めても、差は出なかった
箱で書いた、機械で測れる指標のほうです。ここが動くなら気のせいではない、と言えるところでした。
- 19件のくじ引き試験
- 2021年
- 安静時の測定
- 6つのデータベース
座って行う形の瞑想の試験を、6つのデータベースから集めています。測っているのは、安静にしているときの、迷走神経を介した心拍の揺らぎです。
集めて計算した結果、瞑想を行ったグループのほうが高くなる、とは言えませんでした。飛び抜けた値を示した1件を外して計算し直しても、同じでした。
研究どうしのばらつきは大きく、その理由を、期間の長さ、行った場所、比べた相手といった、あらかじめ決めておいた要因では説明できませんでした。
元の数字:効果の大きさ g=0.38(95%信頼区間 −0.014〜0.77)。外れ値1件を除くと g=0.19(−0.02〜0.39)。どちらも信頼区間が0をまたいでいます。ばらつきを表すI二乗値は89.12%。研究費はアメリカ国立衛生研究所(NIH)から。
いまのところ、瞑想が心拍の揺らぎを改善するという十分な根拠はない。
——結論より(要約して訳したもの)
この研究が調べていないこと
「効かないと確かめられた」ではなく「差があるとは言えなかった」で、人数の少ない試験が多いことが理由かもしれないと著者は書いています。
測っているのは安静時の心拍の揺らぎだけで、瞑想をしている最中のことは調べていません。
原文:The Effects of Mindfulness and Meditation on Vagally Mediated Heart Rate Variability: A Meta-Analysis. Psychosom Med. 2021;83(6):631–640.
doi.org/10.1097/PSY.0000000000000900
耳鳴りへの心理療法。終わった直後には差が出たが、そのあとは確かめられていない
ここから、耳鳴りとの関係になります。マインドフルネスと、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)という、比較的新しい心理療法を、耳や聞こえの問題のある人に使った研究を集めたものです。
- 15件・のべ750人
- うちくじ引き試験6件
- 2022年
- 12件が耳鳴り
15件のうち、くじ引き試験は6件で、残りの9件は、同じ人たちの前と後をくらべただけのものでした。方法の質は、多くが低いか中くらいで、人数も少なめです。
耳鳴りのある人では、聞こえに関する困り度が、終わった直後に、対照や他の治療とくらべて良くなっていました。うつと不安については、ACTのほうだけに差がありました。
ただし、その差がその後も保たれたかどうかは、保たれなかったか、そもそも調べられていませんでした。生活の質が良くなった、という根拠は見つかっていません。
元の数字:15件のうちくじ引き試験は6件、前後比較が9件。12件が耳鳴りを扱っています。耳鳴りのある人で、聞こえに関する困り度が介入の直後に改善。うつと不安はACTでのみ差あり。生活の質の改善を支える根拠はなし。方法の質は多くが低いか中くらいと評価されています。
この研究が調べていないこと
集められた研究の6割はくじ引きで分けていないもので、時間がたったことによる変化と、治療による変化を分けられません。
終わったあと、しばらくしてからどうなるかが、この分野ではほとんど測られていない、というのがこのまとめの指摘です。
原文:A Systematic Review and Meta-Analysis Exploring Effects of Third-Wave Psychological Therapies on Hearing-Related Distress, Depression, Anxiety, and Quality of Life in People With Audiological Problems. Am J Audiol. 2022;31(2):487–512.
doi.org/10.1044/2022_AJA-21-00162
耳鳴りの75人。瞑想のグループで、耳鳴りの重さの下がり方が6.3点大きかった
この分野で、いちばん設計のしっかりした試験です。比べた相手が「何もしない」ではなく、同じ回数・同じ時間のリラクセーション訓練になっています。
- 75人
- 週1回120分×8回
- 16週後と6か月後
- イギリス
慢性の耳鳴りで困っている大人75人を、くじ引きで2つに分けています。片方はマインドフルネス認知療法(39人)、もう片方は集中的なリラクセーション訓練(36人)。どちらも週1回120分を8回です。
最初に決めた測る項目は、耳鳴りの重症度と、心理的な苦痛の2つ。開始から16週後に測ります。
結果として、両方のグループで、耳鳴りの重症度、耳鳴りの大きさ、心理的な苦痛、不安、うつ、生活の支障が下がりました。そのうえで、耳鳴りの重症度の下がり方は、瞑想のほうが6.3点大きくなっていました。
この差は6か月後にも残っていて、そのときの差は7.2点でした。はじめの重症度、耳鳴りとの付き合いの長さ、難聴があるかどうかにかかわらず、同じ向きだったと書かれています。箱に書いた目安と並べて読んでみてください。
元の数字:16週後の平均差 6.3点(95%信頼区間 1.3〜11.4、p=0.016)、6か月後の平均差 7.2点、効果の大きさ0.56(0.16〜0.96)。耳鳴りの重症度は Tinnitus Questionnaire、心理的な苦痛は CORE-NR という尺度で測定。修正した intention-to-treat 解析。
この研究が調べていないこと
比べた相手はリラクセーション訓練で、そちらでも点数は下がっているため、瞑想でなければならないということにはなりません。
自分がどちらのグループかは本人には分かり、75人、ひとつの施設での試験です。
原文:McKenna L, Marks EM, Hallsworth CA, Schaette R. Mindfulness-Based Cognitive Therapy as a Treatment for Chronic Tinnitus: A Randomized Controlled Trial. Psychother Psychosom. 2017;86(6):351–361.
doi.org/10.1159/000478267
86人が参加して、61人が終えた試験。両方よくなり、瞑想のほうが変化は大きかった
こちらも、瞑想とリラクセーション療法をくらべたものです。回数は5回と、上の試験より短くなっています。
- 86人が参加
- 61人が完了
- 5回
- イギリス
参加した86人のうち、マインドフルネス瞑想を終えたのが34人、リラクセーション療法を終えたのが27人でした。
最初に決めた測る項目は、耳鳴り反応質問票(TRQ)です。あわせて、不安とうつの尺度、視覚的な目盛り、健康状態の指標も測っています。
どちらのグループでも、健康状態の指標を除くすべての項目が良くなりました。点数の変化は、瞑想のグループのほうが大きくなっています。
元の数字:86人が参加し、マインドフルネス瞑想を終えたのが34人、リラクセーション療法を終えたのが27人。最初に決めた測る項目は耳鳴り反応質問票(TRQ)。あわせて病院不安抑うつ尺度、視覚的アナログ尺度、健康状態の指標を測定。健康状態の指標を除くすべての項目が両群で改善し、変化の大きさは瞑想群のほうが大きい、と報告されています。
この研究が調べていないこと
86人のうち終えたのは61人で、3割近い人が途中でやめており、その人たちがどうなったかは分かりません。
2つのグループの差がどれくらいで、それが偶然で説明できる範囲かどうかを示す数字は、抄録には出ていません。
原文:A randomised controlled study of mindfulness meditation versus relaxation therapy in the management of tinnitus. J Laryngol Otol. 2017;131(6):501–507.
doi.org/10.1017/S002221511700069X
この記事に入れなかったもの
読んだけれど、今回は入れなかったものです。
耳鳴りへのマインドフルネスの系統的レビュー。7つの研究、425人ぶん。3つのくじ引き試験のうち2つで、終わった直後に差が出ています。上の2022年のまとめと内容が重なるため、外しました(Front Neurol 2019、doi)。
ヨガと瞑想と耳鳴りの系統的レビュー。5つの研究のうち4つはヨガと呼吸法で、瞑想そのものの話とは少しずれます(J Laryngol Otol 2021、doi)。
日本語では、耳鳴の診療にマインドフルネス瞑想を取り入れる話が、日本聴覚医学会の教育セミナーとして記録されています。2ページの記録で、研究の報告ではないため外しました(Audiology Japan 2019;62(5):354–355、J-STAGE)。
同じく日本語で、診療所で認知行動療法の要素を取り入れた集団教育を8人に行い、耳鳴りの困り度の平均が71.0から44.3に下がった、という報告があります。瞑想そのものではなく、比べる相手もいないため、今回は外しました(Audiology Japan 2024;67(2):151–158、J-STAGE)。
試す前に
試してみたいものが見つかった場合は、現在かかっている医師に確認してください。服用中の薬との相互作用や体調については、その医師が最も正確に判断できます。
