眠りが足りないとよくない、とはよく言われます。では、眠る時間をのばすと、体と脳に何が起きるのか。そして、眠りと耳鳴りは、どう関わっているのか。前半に眠りそのものを調べた2本、後半に耳鳴りとの関係を調べた3本、あわせて5本を読みます。

ざっと言うと

  • 眠る時間を1日1.2時間のばした80人は、食べる量が1日270kcal減りました。使ったエネルギーは変わっていません。くじ引きで分けた試験です。
  • 一晩眠ったあとと、一晩眠らなかったあとで、脳脊髄液を比べた試験。アミロイドβとタウは、眠ったあとのほうが低い傾向でした。12人という小さな試験です。
  • 9,693人の調査では、眠れていないことは耳鳴りと結びついていて、機械で測った聴力とは結びついていませんでした。
  • 睡眠時無呼吸については、8つの研究・13万人ぶんで、重い場合に耳鳴りのある割合が高くなっていました。軽い場合と中くらいの場合では、はっきりしません。
  • 不眠の認知行動療法を受けた人は、別のケアを受けた人より不眠が改善し、耳鳴りの苦痛の点数も下がりました。102人を3つに分けた試験です。
くじ引き試験

眠る時間を1.2時間のばしたら、食べる量が1日270kcal減った。80人

眠りが短めの人に、眠る時間をのばしてもらった試験です。食べた量は、本人の記録ではなく、二重標識水法という方法で測っています。特別な水を飲んでもらい、その減り方から、実際に使ったエネルギーを計算する方法です。

  • 80人
  • 21〜40歳
  • 2週間
  • アメリカ

ふだんの睡眠が1晩6.5時間より短い、少し太めの80人が対象です。2週間ふだんどおりに過ごしてもらったあと、くじ引きで2つに分けました。片方は、眠る時間を8.5時間まで延ばすための個別の助言を1回受けます。もう片方は、これまでどおりに過ごします。食事の指示も、運動の指示もありません。

助言を受けたグループは、眠る時間が1晩あたり1.2時間のびました。そして、食べる量が1日270kcal減りました。おにぎり1個半ほどにあたる量です。

使ったエネルギーのほうは、2つのグループで差がありませんでした。つまり、入ってくる量だけが減った形になります。

眠る時間ののび方が大きい人ほど、食べる量の減り方も大きい、という関係も見られました。

元の数字:睡眠時間の差 1.2時間(95%信頼区間 1.0〜1.4、p<0.001)、エネルギー摂取量の差 −270kcal/日(95%信頼区間 −393〜−147、p<0.001)、睡眠時間の変化と摂取量の変化の相関 r=−0.41(−0.59〜−0.20)。研究費はアメリカ国立衛生研究所(NIH)とシカゴ大学の糖尿病研究センターから。利益相反の申告はない、と書かれています。

この研究が調べていないこと

2週間の試験です。この差が何か月も続くのか、続けたときに体重がどうなるのかは、調べていません。

対象は、21〜40歳で、少し太めで、ふだんの睡眠が6.5時間より短い人です。もともとよく眠れている人や、年齢の違う人で同じことが起きるかは分かりません。

眠りの助言を受けた側は、自分がどちらのグループかを知っています。食べる量を測られていることも知っています。

原文:Effect of Sleep Extension on Objectively Assessed Energy Intake Among Adults With Overweight in Real-life Settings: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2022;182(4):365–374.
doi.org/10.1001/jamainternmed.2021.8098(全文が無料で読めます)

くじ引き試験

眠った夜のあとと、眠らなかった夜のあとで、脳脊髄液を比べた。12人

脳のまわりを流れている液(脳脊髄液)を採って、そこに溶けているたんぱく質を測った試験です。アルツハイマー病に関わるとされる、アミロイドβとタウが対象になっています。

  • 12人
  • 20〜40歳
  • 3つの条件
  • スウェーデン

健康な12人が、3つの条件をすべて体験しています。ひとつめは、一晩眠ったあと、午後に採る。ふたつめは、一晩眠ったあと、朝に採る。みっつめは、一晩まったく眠らずに、朝に採る。どの順番で体験するかは、くじ引きで決めています。条件と条件のあいだは、4週間以上あけました。

眠れているかどうかは、本人の申告ではなく、脳波などを測る検査(睡眠ポリグラフ)で確かめています。

アミロイドβとタウは、一晩眠ったあとのほうが、午後に採ったときや、眠らなかったあとよりも、一貫して低い傾向でした。一方で、神経の傷を表すとされる別の指標(神経フィラメント軽鎖、GFAP)は、変わりませんでした。

著者は、深い眠り(徐波睡眠)が、アミロイドβとタウを選んで減らしている、という考え方を支えるものだと書いています。全体をまとめて流し出しているのなら、神経の傷の指標も一緒に動くはずだが、それは動かなかった、という理由です。

研究費はスウェーデン研究評議会、脳基金、アルツハイマー基金など、公的・非営利のところから出ています。ただし著者のひとりは、多くの製薬企業の科学諮問委員や顧問を務め、企業の後援する講演を行い、バイオマーカーの会社の共同創業者でもある、と申告されています。

この研究が調べていないこと

12人です。そして著者自身が「低い傾向」という言い方をしています。はっきり差が出た、と書かれてはいません。

一晩の話です。眠らない夜が続いたときにどうなるかは、調べていません。

脳脊髄液の中の量が変わったことと、将来この人たちが病気になるかどうかは、別の話です。この試験は、そこまでを追いかけていません。

脳脊髄液は、腰から針を刺して採ります。誰にでもできる検査ではありません。

原文:Sleep reduces CSF concentrations of beta-amyloid and tau: a randomized crossover study in healthy adults. Fluids Barriers CNS. 2025;22(1):84.
doi.org/10.1186/s12987-025-00698-x(全文が無料で読めます)

観察研究

眠れていないことは耳鳴りと結びつき、聴力とは結びつかなかった。9,693人

ここから、耳鳴りとの関係になります。アメリカの国民健康栄養調査のデータです。同じ人たちについて、聴力を機械で測り、耳鳴りと眠りについては質問に答えてもらっています。

  • 9,693人
  • 20歳以上
  • 2005〜2018年
  • アメリカ

この調査では、29%の人が「眠りに困っている」と答え、9%の人が睡眠障害の診断を受けたことがある、と答えていました。

眠りの状態がよくない人ほど、気になる耳鳴りがある割合が高くなっていました。一方で、機械で測った聴力の低下とは、結びついていませんでした。年齢や持病の影響を差し引いても、この形は変わりませんでした。

さらに、聴力の値そのものを計算に入れて差し引いても、眠りと耳鳴りの結びつきはほとんど弱まりませんでした。

元の数字:睡眠が1日8時間未満(8時間以上と比べて)オッズ比1.28(95%信頼区間 1.08〜1.52)、眠りに困っている1.78(1.45〜2.19)、睡眠障害の診断あり1.57(1.14〜2.15)、睡眠時無呼吸の症状あり1.42(1.08〜1.88)。オッズ比1.78は、およそ1.8倍ということです。研究費は受けておらず、利益相反の申告もない、と書かれています。

眠りの悪さと耳鳴りの関係は、耳そのものを通した経路が主役ではなく、脳の側の仕組みによるところが大きいと考えられる。

——結論より(要約して訳したもの)

この研究が調べていないこと

ある一時点での状態を、まとめて調べたものです。眠れないことが先なのか、耳鳴りが先なのかは、この形では分かりません。

耳鳴りと眠りは、どちらも本人の答えによるものです。聴力だけが機械で測られています。

原文:Association of Sleep Characteristics with Tinnitus and Hearing Loss. OTO Open. 2024;8(1):e117.
doi.org/10.1002/oto2.117(全文が無料で読めます)

集めたもの

重い睡眠時無呼吸のある人で、耳鳴りのある割合が高かった。8つの研究を合わせて

寝ているあいだに呼吸が止まる睡眠時無呼吸と、耳鳴りの関係を調べた研究を集めたものです。

  • 8件・132,292人
  • うち睡眠時無呼吸 1,556人
  • 2026年

集められたのは、症例対照研究と横断研究です。ある時点での状態を比べる形のもので、時間を追ったものではありません。

全体では、睡眠時無呼吸のある人で、耳鳴りのある割合が1.65倍でした。ただし重さで分けると、重い人では2.25倍とはっきりしていた一方、軽い人と中くらいの人では、差ははっきりしませんでした。

国による違いもありました。イタリアとアメリカの研究では2.91倍、中国の研究では1.35倍と、開きがあります。

元の数字:全体のオッズ比1.65(95%信頼区間 1.14〜2.39)、I二乗値53%。重症2.25(p=0.008)、中等症1.25(p=0.53)、軽症1.80(p=0.17)。国による違いは p=0.02。英語のデータベースに加えて、中国語の万方データとCNKIも検索されています。

この研究が調べていないこと

睡眠時無呼吸を治療したら耳鳴りがどうなるか、を調べたものではありません。同じ時点での重なりを見たものです。

軽い場合と中くらいの場合で差がはっきりしなかったことについて、この研究からその理由は分かりません。人数が足りなかったのかもしれませんし、実際に差がないのかもしれません。

原文:Association Between Sleep Apnea and Tinnitus: A Meta-Analysis. Ear Nose Throat J. 2026;105(9):NP696–NP707.
doi.org/10.1177/01455613241226853

くじ引き試験

不眠の認知行動療法。102人を3つに分けて、6か月後まで追った

ここまでの3本は、重なりを見たものでした。この試験は、眠りのほうを治療したら耳鳴りがどうなるかを、比べる形で調べています。

  • 102人
  • 3つのグループ
  • 6か月後まで
  • 2023年・イギリス

耳鳴りにともなう不眠のある102人を、くじ引きで3つに分けています。ひとつめは不眠の認知行動療法(CBTi)。ふたつめは聴覚の側からのケア。みっつめは、眠りについて話す集まりです。3つとも、人と会う時間があります。

最初に決めた測る項目は、不眠の程度、睡眠効率(布団に入っている時間のうち、実際に眠っている割合)、総睡眠時間の3つでした。

不眠と睡眠効率では、認知行動療法のグループが、聴覚のケアのグループより良い結果でした。終わった直後も、6か月後も同じ向きです。聴覚のケアのグループは、話す集まりのグループより良い結果でした。

臨床的に意味のある改善があったと答えた人は、認知行動療法で8割を超え、聴覚のケアで47%、話す集まりで20%でした。

耳鳴りの苦痛の点数、眠りの質、生活の機能、心の健康の一部についても、認知行動療法のグループのほうが良い結果でした。

元の数字:臨床的に意味のある改善は、CBTi群で80%超、聴覚ケア群で47%、睡眠サポートグループで20%。総睡眠時間は、CBTi群と聴覚ケア群の両方が、6か月後に睡眠サポートグループより長くなっていました。研究費は、英国耳鳴り協会という患者団体から出ています。

この研究が調べていないこと

比べた相手は、何もしないグループではありません。3つとも何かをしています。効かない偽の治療を受けるグループはないので、「人と会って何かに取り組んでいる」という部分の影響までは切り分けられません。

耳鳴りの苦痛は、あとから測った項目のひとつです。最初に決めた3つの項目は、いずれも眠りについてのものでした。あとから測った項目は、先に決めた項目より、偶然の影響を受けやすくなります。

102人という人数で、6か月まで。それより先のことは調べていません。

原文:Cognitive behavioural therapy for insomnia (CBTi) as a treatment for tinnitus-related insomnia: a randomised controlled trial. Cogn Behav Ther. 2023;52(2):91–109.
doi.org/10.1080/16506073.2022.2084155

この記事に入れなかったもの

読んだけれど、今回は入れなかったものです。

眠りと認知症の関係について、13の系統的レビューを集めて見渡したもの。短い睡眠との関連を報告したレビューが6本、長い睡眠との関連が5本、短い睡眠とは関連なしが3本と、結果が割れています。ランセット委員会が挙げる認知症の危険因子にも、睡眠は入っていません。ひとつの記事にするだけの材料があるので、別に立てます(Int J Geriatr Psychiatry 2026、doi)。

耳鳴りのある3,041人ぶんを集めて、眠りに困っている人の割合を53.5%とした集計。耳鳴りのない人と比べる形になっておらず、研究どうしのばらつきも非常に大きいため、外しました(Eur Arch Otorhinolaryngol 2022、doi)。

日本の大学病院から、耳鳴りの34人に睡眠衛生の指導を行った報告。眠りと耳鳴りとめまいの点数が、そろって下がっています。比べる相手のグループがない記録なので、今回は外しました(耳鼻咽喉科臨床 2022、doi)。

4-7-8呼吸法という呼吸のやり方を、耳鳴りのある人に試したくじ引き試験。眠りの質も測っていますが、調べているのは呼吸法であって、眠りの治療ではありません(Brain Behav 2026、doi)。

睡眠時無呼吸と難聴の関係を調べたメタ分析が2本。耳鳴りではなく難聴の話なので、難聴の記事のほうに回します(Otolaryngol Head Neck Surg 2023、doi/Front Neurol 2022、doi)。

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