食べものと聞こえの話です。はじめの2本は、実際に食べるものを変えて、体と聞こえに何が起きたかを確かめた試験。3本目は、食べた量の申告ではなく、血の中の量を測ったもの。後半の3本は、たくさんの人の食べ方と難聴を並べて眺めた研究です。あわせて6本を読みます。
ざっと言うと
- 野菜と果物に低脂肪の乳製品を足し、脂肪を減らした献立を8週間続けた459人の試験では、血圧が対照の献立より低い値になりました。後半に出てくる「DASHの点数」は、この献立から来ています。
- 葉酸を3年のんだ728人の試験では、低い音の聞こえの下がり方が、偽の薬のグループより小さい値でした。高い音では差が出ていません。
- 赤血球の葉酸を測った1,149人の調査では、多いほどよいという形にならず、真ん中あたりのグループでいちばん低い値になりました。
- 3年後にもう一度、機械で聴力を測った3,135人では、食べ方の点数が高いグループで、5デシベル以上下がった人の割合が低い値でした。
- 同じ調査の81,818人を22年追った版では、点数が高い人で、聞こえにくさを申告した人が少ない値でした。こちらは機械ではなく申告です。
- 33の研究を集めた解析では、ビタミンB2、β-カロテン、たんぱく質などが多い人で難聴が少なく、ビタミンA・C・Eでは差が出ていません。ビタミンB12は逆を向いていました。
野菜と果物と、脂肪を減らした献立を8週間。血圧は、対照の献立より低かった
耳の研究ではありません。食べ方を変えると、体に測れるだけの違いが出るのかを確かめた試験です。後半に出てくる「DASHの点数」という言い方は、この献立から来ています。
- 459人
- 8週間
- 1997年
- アメリカ
はじめの3週間は、全員が同じ献立を食べます。野菜と果物と乳製品が少なく、脂肪はアメリカの平均的な量、という献立です。
そのあと、くじ引きで3つに分かれます。そのままの献立、野菜と果物を増やした献立、野菜と果物に低脂肪の乳製品を足して脂肪を減らした献立(組み合わせの献立)。この3つを8週間続けます。
食事はすべて用意されたものです。塩の量と体重は、期間を通して変わらないようにしてあります。血圧の違いが、塩や体重ではなく献立の違いから来ていると分かるようにするためです。
8週間のあと、組み合わせの献立のグループの血圧は、そのままの献立のグループより低い値でした。もともと血圧が高かった人たちでは、差はさらに大きくなっています。
元の数字:組み合わせの献立は、上の血圧が5.5mmHg、下の血圧が3.0mmHg、対照の献立より低い値(いずれもp<0.001)。もともと高血圧のあった133人では11.4mmHgと5.5mmHg、なかった326人では3.5mmHg(p<0.001)と2.1mmHg(p=0.003)。野菜と果物の献立は、上が2.8mmHg低く(p<0.001)、下は1.1mmHg(p=0.07)。研究費はアメリカ国立心肺血液研究所(NHLBI)から。
野菜と果物と低脂肪の乳製品が多く、飽和脂肪と脂肪全体を減らした食事は、血圧をかなり下げうる。
——結論より(要約して訳したもの)
この研究が調べていないこと
耳と聞こえは、この試験では測っていません。
期間は8週間です。何年も続けたときにどうなるかは、この試験の外の話になります。
食事はすべて用意されたものを食べています。自分で買って作る暮らしのなかで同じことが起きるかは、ここでは確かめられていません。
原文:A clinical trial of the effects of dietary patterns on blood pressure. N Engl J Med. 1997;336(16):1117–1124.
doi.org/10.1056/NEJM199704173361601
葉酸を3年のんだグループで、低い音の聞こえの下がり方が小さかった
聞こえについて、実際にのんでもらって確かめた試験です。この分野では数の少ない形になります。
- 728人
- 3年
- 2000〜2004年
- オランダ
参加したのは、血のホモシステインが高めの人たちです。ホモシステインはアミノ酸の一種で、葉酸が足りないと高くなります。13マイクロモル毎リットル以上あり、ビタミンB12のほうは保たれていることが条件でした。中耳の病気や、片側だけの難聴がある人は入っていません。
くじ引きで2つに分かれます。片方は葉酸を1日800マイクログラム、もう片方は見た目の同じ偽の薬を、3年のみます。どちらをのんでいるかは、本人にも調べる側にも分かりません。
聞こえは機械(純音聴力検査)で測っています。低い音(0.5・1・2キロヘルツ)と高い音(4・6・8キロヘルツ)に分け、両耳の平均が3年でどれだけ変わったかを見ています。
3年で、低い音の聞こえは両方のグループで下がりました。その下がり方が、葉酸のグループのほうが小さい値でした。高い音では、差は出ていません。
この試験が行われた当時のオランダでは、食品に葉酸を加えることが認められていませんでした。参加者の葉酸は、アメリカの人のおよそ半分だった、と論文に書かれています。
元の数字:低い音の閾値は3年で、葉酸のグループが1.0デシベル(95%信頼区間 0.6〜1.4)、偽の薬のグループが1.7デシベル(1.3〜2.1)上がりました。差は−0.7デシベル(−1.2〜−0.1)、p=0.020。高い音では差はありません。追えなくなった人は16人(2%)。研究費はワーヘニンゲン大学、ワーヘニンゲン食品科学センター、オランダ保健研究開発機構(ZonMw)から。
食品に葉酸を加えていない国の集団で、加齢にともなう会話の音域の聞こえの低下がゆるやかだった。この結果は、とくに葉酸を加えている国での確認を必要とする。
——結論より(要約して訳したもの)
この研究が調べていないこと
参加したのは、ホモシステインが高めの人に限られています。この条件があるため、そのまま一般の人に広げられるものではない、と論文自身が断っています。
高い音の聞こえは変わっていません。この試験で動いたのは、低い音のほうです。
3年より先のことは調べていません。
原文:Effects of folic acid supplementation on hearing in older adults: a randomized, controlled trial. Ann Intern Med. 2007;146(1):1–9.
doi.org/10.7326/0003-4819-146-1-200701020-00003
血の中の葉酸と聞こえ。真ん中あたりのグループで、聞こえにくい人がいちばん少なかった
食べた量の申告ではなく、赤血球の中の葉酸を測って、聞こえと並べたものです。多いほどよい、という形にはなっていません。
- 1,149人
- 20〜69歳(平均42歳)
- 2003〜2004年
- アメリカ
アメリカの全国調査(NHANES)で、聞こえの検査と血液の検査の両方を受けた人のデータです。
聞こえは機械で測っています。0.5・1・2・4キロヘルツの平均が25デシベルを超える耳がひとつでもあれば「難聴あり」としています。1,149人のうち、16.4%がこれにあたりました。
赤血球の葉酸の量で4つのグループに分け、いちばん少ないグループを1として比べています。3番目のグループでいちばん低い値になり、いちばん多いグループでは1のあたりに戻っています。論文はこれを、U字のような形だと書いています。
ビタミンB12については、多い人で聞こえにくい人が少ない向きが見えましたが、はっきりした差にはなっていません。
元の数字:赤血球葉酸の4分位で、いちばん少ない群を1としたときのオッズ比は、2番目0.87(95%信頼区間 0.49〜1.53)、3番目0.70(0.49〜1.00)、4番目1.08(0.61〜1.94)。年齢、性別、ビタミンB12、喫煙、飲酒、体格、人種、騒音を浴びた経験、収入、学歴で調整しています。研究費はアメリカ国立衛生研究所(NIH)から。
この研究が調べていないこと
ある時点で一度だけ測った調査です。葉酸の量が先にあったのか、聞こえのほうが先だったのかは分かりません。
3番目のグループの信頼区間は、端が1.00にとどいています。
20歳から69歳までのデータで、それより上の年齢は含まれていません。
原文:Erythrocyte folate, serum vitamin B12, and hearing loss in the 2003-2004 National Health And Nutrition Examination Survey (NHANES). Eur J Clin Nutr. 2018;72(5):720–727.
doi.org/10.1038/s41430-018-0101-6(全文が無料で読めます)
食べ方の点数が高い人たちで、3年後に聴力が下がった人の割合が低かった。3,135人
食べ方に点数をつけ、3年をおいて、機械でもう一度聴力を測っています。申告ではなく測定で見た研究です。
- 3,135人
- 3年
- 2012〜2018年
- アメリカ19か所
参加したのは、看護師を長く追いかけている調査(Nurses' Health Study II)の女性で、平均年齢は59歳です。
食べ方は、食べたものの頻度をたずねる用紙から3つの点数を計算しています。DASH(1本目の献立にどれだけ近いか)、地中海食にどれだけ近いか、健康的な食事の指数、の3つです。
聴力は、はじめと3年後に、アメリカ国内19か所で純音聴力検査を行っています。平均の閾値が5デシベル以上上がったかどうかを見ています。
点数が高いグループでは、中くらいの音(3・4キロヘルツ)と高い音(6・8キロヘルツ)で、下がった人の割合が低い値でした。低い音では差が出ていません。
元の数字:DASHの点数がいちばん高い5分の1は、いちばん低い5分の1とくらべて、中くらいの音のオッズ比0.71(95%信頼区間 0.55〜0.92、傾向のp=0.003)、高い音0.75(0.59〜0.96、p=0.02)。中くらいの音では、地中海食が0.77(0.60〜0.99、p=0.02)、健康的な食事の指数が0.72(0.57〜0.92、p=0.002)。研究費はアメリカ国立衛生研究所(NIH)から。
この研究が調べていないこと
食べ方をくじ引きで割り当てた研究ではありません。よく食べている人と、そうでない人のあいだにある暮らしの違いが、この数字には混ざります。
食べたものは本人の申告です。
参加したのは女性だけです。
原文:Prospective Study of Dietary Patterns and Hearing Threshold Elevation. Am J Epidemiol. 2020;189(3):204–214.
doi.org/10.1093/aje/kwz223
81,818人を22年。食べ方の点数が高い人で、聞こえにくさを申告した人が少なかった
ひとつ前と同じ調査の、人数の多い版です。ただし聞こえは、機械ではなく本人の申告になります。
- 81,818人
- 1991〜2013年
- はじめの年齢 27〜44歳
- アメリカ
食べたものは4年ごと、聞こえについては2年ごとにたずねています。中等度以上の聞こえにくさを申告した人は、22年間で2,306人でした。
3つの点数それぞれについて、いちばん高い5分の1と、いちばん低い5分の1を比べています。どの点数でも、高いグループのほうが、申告した人は少ない値でした。
聞こえについて追加の情報がある33,102人にしぼると、差はもう少し大きくなっています。
元の数字:いちばん高い5分の1といちばん低い5分の1をくらべた相対危険は、地中海食0.70(95%信頼区間 0.60〜0.82)、DASH 0.71(0.61〜0.83)、健康的な食事の指数0.79(0.69〜0.91)、いずれも傾向のp<0.001。追加の情報がある33,102人では、順に0.63(0.49〜0.81)、0.64(0.50〜0.83)、0.71(0.56〜0.89)。追跡はのべ100万人年を超えます。研究費はアメリカ国立衛生研究所(NIH)から。
この研究が調べていないこと
聞こえにくさは本人の申告で、機械で測ったものではありません。ひとつ前の研究と数字の意味が違います。
食べ方を割り当てた研究ではありません。
参加したのは女性だけで、はじめの年齢は27歳から44歳です。
原文:Adherence to Healthful Dietary Patterns Is Associated with Lower Risk of Hearing Loss in Women. J Nutr. 2018;148(6):944–951.
doi.org/10.1093/jn/nxy058(全文が無料で読めます)
33の研究を集めて。ビタミンB2、β-カロテン、たんぱく質が多い人で、難聴のある人が少なかった
成分ごとに、難聴との関係を調べた研究を集めて計算し直したものです。差が出なかった成分も、逆を向いた成分も、同じ表に並んでいます。
- 33研究(断面21・コホート10・症例対照2)
- 2024年8月までの文献
- 2025年
- 事前に登録あり(PROSPERO)
集まった33のうち、20は加齢にともなう難聴、11は種類を分けていない難聴、1つは突発性難聴、1つは騒音による難聴を扱っています。
多い人のほうが難聴のある人が少ない、という向きがはっきり出たのは、ビタミンB2、β-カロテン、カロテノイド、β-クリプトキサンチン、脂質、たんぱく質、食物繊維、魚でした。
差が出なかったものもあります。ビタミンA全体、ビタミンC、ビタミンEは、ほとんど1のままでした。抗酸化のはたらきで知られる成分が、この表のなかでそろって同じ向きになっているわけではありません。
ビタミンB12は、2つの研究を合わせると逆を向いています。多い人のほうが、難聴のある人が少し多い、という値でした。
元の数字:ビタミンB2は4研究でオッズ比0.835(95%信頼区間 0.731〜0.954、p=0.008、ばらつきを表すI二乗値21.6%)、β-カロテンは6研究で0.932(0.887〜0.980、p=0.006、I二乗値19.2%)、β-クリプトキサンチン0.926、カロテノイド全体0.928、たんぱく質0.858、脂肪酸を分けずに扱った脂質0.92(0.85〜0.991、p=0.028)。差の出なかったものは、ビタミンA全体0.979(0.902〜1.062)、ビタミンC 0.988(0.896〜1.088)、ビタミンE 1.019(0.909〜1.142)。ビタミンB12は2研究で1.087(1.001〜1.180、p=0.047)。研究費は受けていない、利益相反はない、と申告されています。
この研究が調べていないこと
集まった33のうち21は、ある時点で一度だけ調べた研究です。食べ方が先か、聞こえのほうが先かは分かりません。
成分ごとに集まった研究の数はまちまちです。ビタミンB2は4本、ビタミンB12は2本から計算されています。
食べた量は、どの研究でも本人の申告によるものです。
原文:Protective effects of dietary nutrients on hearing loss: a systematic review and meta-analysis. Front Nutr. 2025;12:1528771.
doi.org/10.3389/fnut.2025.1528771(全文が無料で読めます)
この記事に入れなかったもの
読んだけれど、今回は入れなかったものです。
イギリスの大きな調査(UK Biobank)で、フラボノイドの多い食べ方の点数と、そのあと難聴になった人を並べた研究。枠としては上の2本と重なるため、外しました(J Nutr Health Aging 2026、doi)。
男性26,273人で、ビタミンC・E・β-カロテン・B12・葉酸の摂取と難聴を調べた研究。こちらも食べ方と難聴という枠が重なります(Otolaryngol Head Neck Surg 2010、doi)。
職場の騒音による難聴に、ビタミンB12、葉酸、N-アセチルシステインなどを使った12件の試験を集めたレビュー。日々の食事の話ではなく、騒音への対策として使う話なので、別の記事の材料になります(J Occup Health 2021、doi)。
日本語では、地域に住む高齢の女性で、難聴のリスクが低い食品を検討した記録があります。学会の一般演題として2ページにまとめられたもので、研究の報告としての人数や比べ方までは示されていないため、外しました(Audiology Japan 2015;58(5):265–266、J-STAGE)。
試す前に
試してみたいものが見つかった場合は、現在かかっている医師に確認してください。服用中の薬との相互作用や体調については、その医師が最も正確に判断できます。
