水をたくさん飲むといい。そう言われます。ただ、なぜそれがいいのかを数字で見たものは、あまり出回っていません。ここ数年で、その景色が少し変わりました。血が濃いか、薄いか。健康診断の血液検査のなかに、その人の水の足り方を映している数字があると分かってきたからです。しかも、検査で「異常なし」と書かれる範囲の中での、わずかな違いでした。はじめに、水を増やしてもらった試験を6本。そのあとに、その血液の数字を25年から30年追いかけた研究を3本。あわせて9本を読みます。
ざっと言うと
- 日本の55人が1日の水分を1.3リットルから2.0リットルに増やした12週間の試験では、上の血圧が123.8から117.4に下がりました。
- 水を増やす試験を18本集めたレビューでは、体重の減り方と、腎結石の少なさに、はっきりした差が出ていました。
- 腎結石を経験した199人を5年追った試験では、再発した人が100人あたり12人。水を増やさなかったグループでは27人でした。
- 膀胱炎をくり返す140人が1年間、水を1.5リットル増やしたところ、膀胱炎の回数が平均1.7回。増やさなかったグループでは3.2回でした。
- 食事の前に500mLの水を飲んだ48人では、12週間で減った体重が2kgほど多い値でした。
- 頭痛のある102人が3か月、水を1.5リットル増やしたところ、「かなり良くなった」と答えた人が47%。増やさなかったグループでは25%でした。
- 中年期に血が少しだけ濃いほうだった人では、25年のあいだに心不全になった人が39%多くなっていました。
- 同じ見方で、認知症になった人の割合も上がっています。いちばん濃いほうで1.5倍から3倍。40万人の診療記録でも同じ形でした。
- 体が実年齢より古く見える人は1.5倍。慢性の病気になった人が39%、若くして亡くなった人が21%多い値でした。
そもそも体の水とは
体重のうち、水が占める割合は、年齢とともに減っていきます。生まれて半年までは60%。60歳になると、男性で50%、女性で42%です。脂肪は水をあまり含まないので、体脂肪の割合が高いほど、水の割合は下がります。
その水は、じっとしているわけではありません。毎日、入っては出ていきます。体の水のうち、1日に入れ替わる割合は、生まれたばかりの赤ちゃんで28%、18〜40歳の大人で10%ほどです。
入ってくるのは、飲みものだけではありません。食べもの、呼吸で吸いこむ空気の中の水蒸気、皮膚から入るぶん、そして、食べたものを体の中で燃やしたときにできる水。この4つが足されます。
そのため、1日に入れ替わる量は人によって大きく違います。5,604人を重い水素で追いかけた調査を見ると、少ない人で1日1〜1.5リットル、多い人で6リットルでした。外れた人では10リットルを超えています。年齢、体の大きさ、体脂肪の割合、運動量、気温、湿度、標高、住んでいる国。どれもがこの量に関わっています。妊娠の終わりごろには1日670mL、授乳中には260mL増えます。
つまり、「1日に何リットル」と一律に決められるものではない、ということです。
では、自分の体が足りているかどうかは、どこを見れば分かるのか。ここからが、この記事の後半につながる話になります。
手がかりになるのは、「血が濃いか、薄いか」です。
みそ汁を火にかけたまま忘れると、味が濃くなります。味噌の量は増えていません。水のほうが減ったから、濃くなります。
血にも、同じことが起きます。血のなかには、塩の成分(ナトリウム)がとけています。体の水が減ると、その塩の量は変わらないのに、濃さのほうが上がります。だから、血のナトリウムの値は「塩をどれだけ食べたか」ではなく、「体に水がどれだけあるか」を映す数字になります。ここは、名前から受ける感じと逆かもしれません。
体は、この濃さをとても狭い範囲に保とうとします。理由があります。細胞は、薄い膜でできた水のふくろのようなものです。ふくろの外の液が濃くなると、中の水が外へ引き出されてしまう。だから体は、濃さのほうを先に守ります。
健康診断の血液検査にも、この数字は入っています。単位はmmol/L。血1リットルのなかにどれだけとけているかを表したもので、大きいほど濃いという意味です。「異常なし」とされるのは、135から145のあいだ。この記事の後半に出てくる141や143は、その「異常なし」の中の数字です。幅から外れた人の話ではありません。
その141や143が、どれくらいの水不足にあたるのか。心不全の研究を書いた人たちは、143を「体重の1%にあたる水が足りていない状態」だと説明しています。体重60kgの人で600mLほど。500mLのペットボトル1本と少しです。一度に失う量というより、その状態がふだんから続いている、という意味になります。
そして、体には守りの仕組みがあります。血が濃くなりかけると、バソプレシンというホルモンが出ます。腎臓に「水を捨てるな」と伝える指示です。尿は濃く、少なくなり、水は体にとどまります。
この仕組みがあるおかげで、少しくらい水が足りなくても、血の濃さの数字は大きくは動きません。逆に言えば、数字が少し高いほうに寄っている人は、その指示がずっと出しっぱなしになっている、ということでもあります。この記事の1本目では、水を足した人たちで、その指示の目印が下がっていました。後半の3本が見ているのは、出しっぱなしが何十年も続いた人たちの、その先です。
なお、世界の大人のおよそ半分が、すすめられている量の水分に届いていないと考えられる、と2026年の論文が書いています。
それでも、水が足りないと困ることは、はっきりしています。人は水を飲まないと、3日ほどしか生きられません。
では、足りている人がさらに意識して増やすと、何がいいのか。まず、そこから読みます。
出典:Yamada Y ほか Variation in human water turnover associated with environmental and lifestyle factors. Science. 2022;378(6622):909–915. doi.org/10.1126/science.abm8668(生後8日から96歳までの5,604人を、重水素を使って測ったもの。体重に占める水の割合は生後6か月までが60.0±6.4%、60歳で男性50.4±5.3%・女性42.0±4.8%。体の水のうち1日に入れ替わる割合は新生児28.3±7.2%、18〜40歳の大人9.9±3.0%。研究費は国際原子力機関、大陽日酸、SERCON、アメリカ国立科学財団、中国科学院から。資金提供者は内容に関わっていないと書かれています。全文が無料で読めます) / Dmitrieva NI, Boehm M, Yancey PH, Enhörning S. Long-term health outcomes associated with hydration status. Nat Rev Nephrol. 2024;20(5):275–294. doi.org/10.1038/s41581-024-00817-1(水のバランスの仕組みと、バソプレシン・血のナトリウム・尿の濃さという3つの目印についての総説)
水を1日660mL足した日本の55人。12週間のあいだに、上の血圧が123.8から117.4に下がった
まず、日本で行われた試験から読みます。何が動いて、何が動かなかったのかが、いちばん見やすいものになります。
- 55人(男性24人・女性31人)
- 550mLのペットボトルを1日2本
- 12週間
- 2020年・日本
参加したのは、空腹時の血糖が90から125mg/dLと少し高めの、健康な日本人です。平均年齢は64歳でした。くじ引きで2つに分かれ、片方はふだんの水分に加えて、550mLのペットボトルを1日2本。起きて2時間以内に1本、寝る2時間前に1本と、飲む時間も決められています。もう片方は、何も足しません。
12週のあいだに、飲んだ側の1日の水分は1,342mLから1,998mLに増えました。体に占める水の割合も上がっています。
上の血圧は、123.8から117.4mmHgに下がりました。下の血圧のほうは変わっていません。
腎臓の側でも動きがありました。血のなかの老廃物(尿素窒素)が15.6から13.8mg/dLに下がっています。腎臓がどれだけ血をこせているかを表す数字(eGFR)は、水を足さなかった側では12週のあいだに下がり、足した側では下がっていません。
もうひとつ。腎臓が水をとり戻すときに使う部品(アクアポリン2)が、尿に出てくる量で測られています。これは、箱で書いた「水を捨てるな」という指示がどれだけ出ているかの目印です。飲んだ側では、それが下がっていました。血の濃さのほうも、足さなかった側では上がり、足した側では上がっていません。守りの仕組みが、ひと息ついた形になります。
一方で、この試験が最初に決めていた目標は、空腹時の血糖でした。そこには差が出ていません。
元の数字:60人を割り付け、57人が試験期間に参加し、解析は対照27人・介入28人。飲み忘れのない割合は99.7%。1日の水分は対照1,428→1,445mL、介入1,342→1,998mL(p<0.001)。収縮期血圧は介入群で123.8±20.5→117.4±15.7mmHg(p=0.01)。尿素窒素15.6±4.4→13.8±4.4mg/dL(p<0.001)。eGFRは対照群で66.6±7.9→64.5±7.2mL/分/1.73平方メートル(p=0.003)、介入群では変化なし。血漿浸透圧は対照群で294.6→297.2mOsm/kgに上がり、介入群では上がらず(p=0.004)。尿中アクアポリン2/クレアチニン比は介入群で0.06→0.04。主要評価項目の空腹時血糖と、バソプレシンそのものには差なし。研究費は公的にも民間にも特定の助成を受けておらず、利益相反はないと申告されています。
この研究が調べていないこと
あらかじめ主要な目標として決めていた空腹時の血糖には、差が出ていません。
血圧や腎臓の数字は、その主要な目標のほうには入っていなかった項目です。
原文:Nakamura Y ほか Effect of Increased Daily Water Intake and Hydration on Health in Japanese Adults. Nutrients. 2020;12(4):1191.
doi.org/10.3390/nu12041191(全文が無料で読めます)
水を増やす試験を18本集めて。体重と腎結石で、はっきりした差が出ていた
日本の1本で見えたことが、ほかの試験ではどうだったのか。実際に量を変えて確かめた試験だけを集めたものです。
- 18の試験
- 期間は4日から5年
- 2023年4月までの文献
- 2024年
体重の減り方は、水を増やしたグループのほうが44〜100%大きい値でした。腎結石は、5年で100人あたり15件少ない計算になります。
そのほかに、片頭痛、膀胱炎、糖尿病の管理、低血圧について、それぞれ1本ずつ、良い結果を示す研究がありました。
18本のうち、10本が何らかの良い結果を報告し、8本では差が出ていません。集められた試験は、1日の水の量を決めた分だけ増やす(または減らす)もので、比べる相手はふだんどおりに飲むグループでした。
元の数字:1,464件から18本を選び、15本が並行群間のくじ引き試験、3本が交差試験。くり返し出てきた主な項目は、体重、空腹時の血糖、頭痛、尿路感染、腎結石でした。
水は安く、体に起きる困りごとも少ない。ここに挙げた状態について、よく設計された研究がさらに行われるべきである。
——結論より(要約して訳したもの)
この研究が調べていないこと
集まった試験の数は多くなく、質と量には限りがある、と論文自身が書いています。
原文:Outcomes in Randomized Clinical Trials Testing Changes in Daily Water Intake: A Systematic Review. JAMA Netw Open. 2024;7(11):e2447621.
doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2024.47621(全文が無料で読めます)
腎結石を経験した199人を5年。水を増やしたグループで、再発した人が少なかった
18本のなかで、いちばんはっきり差が出ていた側の1本です。この記事のなかでも、追いかけた期間が5年といちばん長くなります。
- 199人
- 5年
- 1996年
- イタリア
5年のあいだに再発した人は、水を増やしたグループで100人あたり12人。増やさなかったグループでは27人でした。
再発するまでの期間も違っています。水を増やしたグループが平均38.7か月、増やさなかったグループが25か月でした。1年ほどの差になります。
参加したのは、初めて腎結石を起こした人たちです。くじ引きで2つに分かれ、片方は食事を変えずに水をたくさん飲みます。もう片方は、とくに何もしません。毎年、診察と検査と画像で調べています。
元の数字:再発率は12.1%対27%(p=0.008)、再発までの平均期間は38.7±13.2か月対25±16.4か月(p=0.016)。結石のない101人とあわせて、尿の量が結石のできやすさとどう関わるかも調べています。
この研究が調べていないこと
対象は、すでに腎結石を起こした人です。結石になったことのない人が水を増やした場合は、調べられていません。
原文:Urinary volume, water and recurrences in idiopathic calcium nephrolithiasis: a 5-year randomized prospective study. J Urol. 1996;155(3):839–843.
doi.org/10.1016/S0022-5347(01)66321-3
膀胱炎をくり返す140人が、1年間、水を1.5リットル増やした
腎結石と同じく、尿の量が増えることが関わっていそうな場所です。水を増やすといい、とよく言われてきたところに、実際の試験がひとつ入りました。
- 140人
- 12か月
- 2013〜2016年
- アメリカ
1年間の膀胱炎の回数は、水を増やしたグループで平均1.7回。増やさなかったグループでは3.2回でした。差は1.5回です。
全体では327回の膀胱炎が起きていて、そのうち水のグループが111回、もう片方が216回でした。抗菌薬を使った回数も、水のグループのほうが少なくなっています。
参加したのは、前の年に3回以上膀胱炎を起こし、1日の水分が1.5リットル未満だった閉経前の女性です。ふだんの水分に加えて、1日1.5リットルの水を飲みます。
元の数字:膀胱炎の回数は1.7回(95%信頼区間 1.5〜1.8)対3.2回(3.0〜3.4)、差は1.5回(1.2〜1.8、p<0.001)。参加者の平均年齢は35.7歳、前の年の膀胱炎は平均3.3回でした。この試験(ClinicalTrials.gov NCT02444975)の実施主体は、飲料を扱うダノンの研究部門です。
この研究が調べていないこと
対象は、膀胱炎をくり返していて、もともと水分が少なかった女性です。そうでない人のことは調べられていません。
原文:Effect of Increased Daily Water Intake in Premenopausal Women With Recurrent Urinary Tract Infections: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2018;178(11):1509–1515.
doi.org/10.1001/jamainternmed.2018.4204(全文が無料で読めます)
食事の前に500mLの水。12週間で、減った体重が2kgほど多かった
ここまでは飲む量の話でした。この試験が変えたのは、量ではなく、飲むタイミングです。
- 48人
- 12週間
- 55〜75歳
- 2010年・アメリカ
12週間で減った体重は、水を飲んだグループのほうが2kgほど多い値でした。減り方でいうと44%大きい計算になります。
どちらのグループも、カロリーを減らした食事をしています。違いは、毎食の前に500mLの水を飲むかどうかだけでした。
試験の最初には、水を先に飲むと、その食事で食べる量が減っていました。ただし12週間たったあとは、その差ははっきりしなくなっています。
元の数字:体重の減り方は水のグループでβ=−0.87(p<0.001)、飲まないグループでβ=−0.60(p<0.001)。試験の食事で食べた量は、開始時に水あり498±25kcal、水なし541±27kcal(p=0.009)、12週後は480±25kcalと506±25kcal(p=0.069)。研究費はアメリカ国立衛生研究所(NIH)から出ています。
この研究が調べていないこと
参加したのは、体重が多めの55歳から75歳の48人です。ふつうの食事をしている人が水だけ増やした場合は、この試験の外になります。
原文:Water consumption increases weight loss during a hypocaloric diet intervention in middle-aged and older adults. Obesity (Silver Spring). 2010;18(2):300–307.
doi.org/10.1038/oby.2009.235(全文が無料で読めます)
頭痛のある102人が、3か月、水を1.5リットル増やした
水を増やした試験の、最後の1本です。ここでは、感じ方と、日数とで、結果が分かれました。
- 102人
- 3か月
- 2012年
- オランダ・診療所
「かなり良くなった」と答えた人は、水を増やしたグループで47%。増やさなかったグループでは25%でした。頭痛にともなう生活の質の点数も、4.5点上がっています。
一方で、中等度以上の頭痛が起きた日数のほうには、意味のある変化は出ていません。感じ方は変わり、日数は変わらなかった、ということになります。
参加したのは、月に2回以上の中くらいの頭痛か、5回以上の軽い頭痛があり、1日の水分が2.5リットル未満だった人です。両方のグループに、ストレスと睡眠についての紙が配られ、片方はそれに加えて水を1.5リットル増やしています。
元の数字:頭痛にともなう生活の質の点数は4.5点(95%信頼区間 1.3〜7.8)の改善。10点満点で6点以上の改善を感じた人は、水のグループ47%、対照25%。中等度以上の頭痛の日数には、意味のある変化はありませんでした。
この研究が調べていないこと
頭痛の日数そのものは変わっていません。良くなったと答えた人が多かった、というところまでの結果です。
原文:A randomized trial on the effects of regular water intake in patients with recurrent headaches. Fam Pract. 2012;29(4):370–375.
doi.org/10.1093/fampra/cmr112
中年期に血が少しだけ濃いほうだった人。25年のあいだに心不全になった人が39%多かった
ここから3本は、水を増やした試験ではありません。箱で書いた「血の濃さ」を、何十年も追いかけたものです。飲んだ量の記録ではなく、体のほうに出ていた結果を見ています。
- 11,814人
- 25年
- 45〜66歳で登録
- 2022年・アメリカ
血のナトリウムは、135から145のあいだなら「異常なし」とされます。この研究が見たのは、その幅の中で143を超えていた人たちです。健康診断では、何も言われない値になります。
その人たちでは、そのあと心不全になった人が39%多くなっていました。論文は、143という値を、体重の1%にあたる水が足りていない状態にあたる、と説明しています。
使われたのは、ARICという、アメリカで45歳から66歳の人を集めて25年追いかけた調査の記録です。水のバランスが崩れる理由がはっきりある人(ナトリウムが幅の外にある、糖尿病がある、肥満、すでに心不全がある)を外して、11,814人を見ています。
70歳から90歳になった4,961人を別に見ると、中年期のナトリウムが142.5から143だった人で、心臓の壁が厚くなる左室肥大と診断されていた割合が62%高く、143を超えていた人では107%高くなっていました。心不全そのものも54%高い値です。
元の数字:心不全のハザード比1.39(95%信頼区間 1.14〜1.70)。左室肥大のオッズ比は142.5〜143mmol/Lで1.62(1.03〜2.55)、143超で2.07(1.30〜3.28)。心不全のオッズ比は143超で1.54(1.06〜2.23)。対象は血清ナトリウムが135〜146mmol/Lの範囲内で、糖尿病・肥満・心不全のない人。研究費はアメリカ国立心肺血液研究所(NHLBI)の内部研究プログラム(ZIA-HL006077-10)から。ARICそのものもNHLBIの連邦資金による調査です。
この研究が調べていないこと
見ているのは血液の数字であって、その人が1日に何リットル飲んでいたかではありません。
水を増やしたらどうなるかは、この調べ方では分かりません。
原文:Dmitrieva NI, Liu D, Wu CO, Boehm M. Middle age serum sodium levels in the upper part of normal range and risk of heart failure. Eur Heart J. 2022;43(35):3335–3348.
doi.org/10.1093/eurheartj/ehac138(全文が無料で読めます)
同じ幅の、真ん中より少し上から。認知症になった人の割合が上がっていた
心臓の次は、脳です。同じ調査に、イスラエルの40万人ぶんの診療記録を重ねています。
- 13,535人+395,802人
- 最長30年
- アメリカとイスラエル
- 2026年
ひとつはARICの13,535人。登録したときの平均年齢は57歳で、30年近くのあいだに2,965人(22%)が認知症になっています。もうひとつは、イスラエルの医療機関に残された395,802人ぶんの診療記録です。
どちらでも、認知症になった人の割合は、血のナトリウムが141を超えたあたりから上がりはじめていました。135から145という「異常なし」の幅の、ちょうど真ん中より少し上です。いちばん濃いほうまで行くと、1.5倍から3倍でした。
上がり方は、まっすぐではありません。幅の真ん中あたりまではほとんど平らで、そこから先で曲がっていきます。
血のなかにとけているもの全体の濃さで見ても、同じあたりから上がりはじめていました。血糖の影響を差し引いて計算し直しても、認知症になる前に脳卒中を起こした人とそうでない人に分けても、同じ形が残っています。
元の数字:ARICは13,535人、登録時の平均年齢57.1±5.7歳、55%が女性、30年近い追跡で認知症2,965人(22%)。曲線は制限付き三次スプラインで描かれ、上昇の始まりは血清ナトリウム約141mmol/L、血清浸透圧(とけているもの全体の濃さ)約287mOsm/kg。上端では1.5〜3倍。イスラエルのLeumit Health Servicesの記録395,802人ぶんでも、同じ形と同じしきい値が再現されました。研究費はNHLBIなどの内部研究プログラムと、ARICへの連邦資金(NHLBI・NINDS・NIA・NIDCD)から。著者らは金銭的な利益相反はないと申告しています。
この研究が調べていないこと
血液の数字と認知症が一緒に動いていた、というところまでの結果です。
水を増やすと認知症が減るかどうかを確かめた試験ではありません。
原文:Dmitrieva NI ほか Serum sodium, tonicity, and risk of dementia in cohort and healthcare populations. Alzheimers Dement. 2026;22(8):e71725.
doi.org/10.1002/alz.71725(全文が無料で読めます)
血が少し濃いほうだった人。体が実年齢より古く見える人が1.5倍だった
最後は、病気をひとつずつ数えるのではなく、体そのものの古さを測った研究です。箱で書いた「毎日入れ替わる水」の話が、いちばん長い時間の幅で戻ってきます。
- 15,752人
- 25年
- 45〜66歳で登録
- 2023年・アメリカ
同じARICの記録から、血液の検査値をいくつも組み合わせて、その人の体が何歳くらいに見えるかを計算しています。心臓、腎臓、呼吸、炎症、代謝。年齢とともに動く指標を集めて、実年齢とは別に出した「体の年齢」です。
中年期のナトリウムが142を超えていた人が、その体の年齢のほうが実年齢より上になる確率は、最大で1.5倍でした。
病気のほうも見ています。142を超えていた人では、そのあと慢性の病気になった人が39%多く、144を超えていた人では、若くして亡くなった人が21%多い値でした。そして、体の年齢が実年齢より上だった人では、慢性の病気が70%、若くして亡くなる人が59%多くなっています。
この研究チームは、マウスで生涯にわたって水を減らすと寿命が短くなり、体のあちこちに老化した変化が出ることを先に確かめていて、その仮説を人で見たものだ、と書いています。
元の数字:45〜66歳で登録した15,752人を25年。血清ナトリウム142mmol/L超で慢性疾患のハザード比1.39(95%信頼区間 1.18〜1.63)、144mmol/L超で早期死亡のハザード比1.21(1.02〜1.45)。142mmol/L超で生物学的年齢が実年齢より上になるオッズ比は最大1.50(1.14〜1.96)。生物学的年齢が高いことは、慢性疾患のハザード比1.70(1.50〜1.93)、早期死亡の1.59(1.39〜1.83)と結びついていました。研究費はNHLBIの内部研究プログラムと、ARICへの連邦資金から。
中年期の血清ナトリウムが142mmol/Lを超える人は、生物学的に年上であり、慢性疾患を発症し、若くして亡くなるリスクが高い。水分状態と老化の結びつきを確かめるには、介入研究が必要である。
——結論より(要約して訳したもの)
この研究が調べていないこと
著者自身が、確かめるには水を増やす介入研究が要る、と書いています。
血のナトリウムは、水の足り方以外の理由でも動きます。
原文:Dmitrieva NI, Gagarin A, Liu D, Wu CO, Boehm M. Middle-age high normal serum sodium as a risk factor for accelerated biological aging, chronic diseases, and premature mortality. EBioMedicine. 2023;87:104404.
doi.org/10.1016/j.ebiom.2022.104404(全文が無料で読めます)
この記事に入れなかったもの
読んだけれど、今回は入れなかったものです。差が出なかった研究も、ここに置いておきます。
慢性腎臓病のある631人に、1年間、水を増やしてもらった試験。尿の量は1日0.6リットル増えましたが、腎機能の下がり方には差が出ませんでした(JAMA 2018、doi)。
水が足りない人31人が、6週間、水を1.5リットル増やした試験。「水を捨てるな」という指示の目印が12.9から7.8に、空腹時の血糖も下がりました。ただし比べる相手のグループがなく、著者に飲料やサプリメントを扱う企業の研究員が入っているため、今回は外しました(J Clin Endocrinol Metab 2019、doi)。
イングランドの献血73か所・140万人の試験。もともと配られている500mLの水に、飲みものを変える、休む時間を延ばすなどを足しても、差は出ていません(Lancet Haematol 2026、doi)。
飲む水の温度を、常温・氷水・温水で変えた14人の試験。気が遠くなるまでの時間に差は出ませんでした(Clin Auton Res 2022、doi)。
メニエール病の18人が2年間、体重1kgあたり35mLの水を飲んだ日本の報告。比べた相手が、7年から14年前に同じ病院にかかっていた人たちの記録なので、今回は外しました(Laryngoscope 2006、doi)。
試す前に
試してみたいものが見つかった場合は、現在かかっている医師に確認してください。服用中の薬との相互作用や体調については、その医師が最も正確に判断できます。
