めまいと、体を動かすことの話です。はじめの2本は、めまいとは関係なく、運動そのものが体と気分に何をしているのかを調べたもの。後半の4本は、めまいのある人に体を動かしてもらった研究です。最後の1本は日本のもので、続けることの難しさが数字に出ています。あわせて6本を読みます。
ざっと言うと
- 108のくじ引き試験・23,407人を集めた解析では、運動をしたグループの転倒の回数が、対照より23%少ない値でした。とくにバランスと足腰の運動です。
- 81のメタ分析・のべ79,551人ぶんを重ねた解析では、運動をしたグループでうつと不安の点数が低い値でした。
- 片側の前庭が弱った人の39試験・2,441人を集めた解析では、めまいが減ったと答えた人が、対照より多い値でした。
- 良性発作性頭位めまい症の134人を、頭の位置を順に変える手技と、偽の手技に分けた試験。1週間後に、めまいと眼振の残っていた人が少ない値でした。
- 家でインターネットを見ながら行う前庭リハビリテーションの296人の試験では、3か月後と6か月後の、めまいの点数が低い値でした。
- 日本で26人に平衡訓練を行った報告では、4週間続けられたのは14人でした。続けられた人では、日常の動作の点数が上がっています。
バランスと足腰の運動を続けた人たちで、転んだ回数が少なかった。108の試験を集めて
めまいの研究ではありません。体を動かすことが、体のバランスに何をしているのかを、いちばん大きくまとめたものです。
- 108試験・23,407人
- 25か国
- 2019年
- 平均76歳・77%が女性
地域で暮らす60歳以上の人を対象にした、くじ引き試験だけを集めています。脳卒中など特定の病気にしぼった試験は外してあります。
運動と、転倒を減らすとは考えにくい対照とを比べた81試験のうち、転んだ回数を集計できた59試験で、運動をしたグループの転倒は23%少ない値でした。確からしさは高い、とされています。
論文はこれを、1年で1,000人あたり850回転ぶという前提に置き換えて示しています。その場合、195回ぶん少ない計算になります。
運動の種類でも分けています。バランスと日常の動作の運動では24%、それに筋力の運動を足した組み合わせでは34%、太極拳では19%、それぞれ少ない値でした。筋力の運動だけ、ダンスだけ、歩くだけについては、はっきりしたことは言えていません。
体に起きた困りごとも数えています。27試験が何らかの形で報告し、14試験では何も起きていません。重いものは、ひとつの試験で2件(骨盤の疲労骨折と、鼠径ヘルニアの手術)でした。
元の数字:転倒の回数の比0.77(95%信頼区間 0.71〜0.83、12,981人・59試験、高い確からしさ)。1回以上転んだ人の比0.85(0.81〜0.89、13,518人・63試験)。バランスと機能の運動0.76(0.70〜0.81、7,920人・39試験)、複数の種類を組み合わせたもの0.66(0.50〜0.88、1,374人・11試験)、太極拳0.81(0.67〜0.99、2,655人・7試験)。2018年5月2日までの文献。研究費は英国国立衛生研究所(NIHR)から。
地域で暮らす高齢者では、運動の計画が転倒の回数と、転んだ人の数を減らす。転倒を減らす運動は、主にバランスと日常の動作の運動である。
——結論より(要約して訳したもの)
この研究が調べていないこと
めまいのある人を対象にした解析ではありません。ここに出てくるのは、地域で暮らす60歳以上の人の転倒です。
転倒以外のことについては、確からしさが下がります。生活の質については、ほとんど違いがないという結果でした。
多くの試験に、偏りの心配が残る項目がありました。
原文:Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev. 2019;(1):CD012424.
doi.org/10.1002/14651858.CD012424.pub2(全文が無料で読めます)
81のメタ分析を重ねて。運動をしたグループで、うつと不安の点数が低かった
こちらもめまいの研究ではありません。すでにあるメタ分析を、さらに集めて重ねたものです。めまいが続く人には気分の落ち込みや不安がついてくることがあり、後半につながります。
- 63件のレビュー・81のメタ分析
- 元になった研究1,079件
- のべ79,551人
- 2026年
くじ引き試験を集めたメタ分析だけを集めています。慢性の体の病気がある人を対象にしたものは、話が混ざるため外してあります。子どもから大人まで、診断のついた人も、点数が高いだけの人も含みます。
運動をしたグループでは、うつの点数も不安の点数も低い値でした。どちらも、いちばん大きかったのは有酸素運動です。
細かく見ると、うつでは18歳から30歳の人と、産後の女性で差が大きく、ひとりよりも集団で、指導する人がいる形のほうが大きい値でした。不安のほうは、短い時間で、強度の低い運動と結びついていました。
元の数字:うつは効果の大きさ−0.61(95%信頼区間 −0.69〜−0.54)、不安は−0.47(−0.59〜−0.36)。効果の大きさ0.61は、ばらつきを1としたときの差が0.61ということで、中くらいにあたります。2025年7月31日までの文献。事前の登録あり(PROSPERO)。
この研究が調べていないこと
めまいのある人は、この解析の対象に入っていません。
集めたのはメタ分析で、ひとつひとつの試験にさかのぼって数え直したものではありません。
点数が下がったことと、その人の暮らしがどう変わったかは、別のことです。この解析は、そこまでは見ていません。
原文:Effect of exercise on depression and anxiety symptoms: systematic umbrella review with meta-meta-analysis. Br J Sports Med. 2026;60(8):590–599.
doi.org/10.1136/bjsports-2025-110301
片側の前庭が弱った39の試験。めまいが減ったと答えた人が、対照より多かった
耳の奥にある平衡の器官(前庭)が、片側だけ弱った人が対象です。目や頭を動かす練習を続ける方法を、前庭リハビリテーションと呼びます。
- 39試験・2,441人
- 2015年
- 2014年1月までの文献
- 地域で暮らす成人
集めたのは、病気やけが、手術のあとに片側の前庭の働きが落ちた人の、くじ引き試験です。前庭リハビリテーションを、何もしない対照や偽の方法、薬、別のやり方と比べています。
めまいの起きる頻度を見た4試験・565人では、前庭リハビリテーションのグループのほうが、めまいが減ったと答えた人が多い値でした。日常の困りごとを測る指標でも、同じ向きの差が出ています。
ひとつだけ、向きの違うところがあります。良性発作性頭位めまい症(耳石が本来と違う場所に入り込んで起きる、頭を動かしたときの短いめまい)では、体位を順に変える手技のほうが、短い期間で見ると治りが良い、という結果でした。両方を組み合わせると、長い目で見た回復には役立つ、とも書かれています。
体に起きた困りごとの報告はありませんでした。
元の数字:めまいの頻度のオッズ比2.67(95%信頼区間 1.85〜3.86、4試験565人)。日常の活動や参加の指標は効果の大きさ−0.83(−1.02〜−0.64)。良性発作性頭位めまい症では、運動を中心とした方法に対する体位の手技のオッズ比0.19(0.07〜0.49)で、手技のほうが短期の治癒率が高い値でした。
片側の末梢前庭障害に対して、前庭リハビリテーションは安全で有効な方法である、という中くらいから強い確からしさの根拠がある。ただし良性発作性頭位めまい症では、短い期間で見るかぎり、体位を変える手技のほうが優れている。
——結論より(要約して訳したもの)
この研究が調べていないこと
対象は、片側の末梢の前庭が弱った人です。両側の場合や、脳の側に原因がある場合は入っていません。
集めた研究の4分の1ほどで、評価する人が割り付けを知っていたことと、報告の選び方が、結果を歪めた可能性が残ります。
前庭リハビリテーションのやり方どうしを比べて、どれが良いかを決めるには、根拠が足りないとされています。
原文:Vestibular rehabilitation for unilateral peripheral vestibular dysfunction. Cochrane Database Syst Rev. 2015;(1):CD005397.
doi.org/10.1002/14651858.CD005397.pub4(全文が無料で読めます)
頭の位置を順に変える手技。1週間後に、めまいと眼振の残っていた人が少なかった。134人
ひとつ前の解析で、短い期間なら手技のほうが、とされていたものです。診療所で、実際に偽の手技と比べています。
- 134人(手技66人・偽の手技68人)
- 2012年11月〜2015年1月
- スペインの2つの診療所
- 二重盲検
参加したのは18歳以上で、後半規管の良性発作性頭位めまい症と診断された人です。診断には、頭を倒して目の動きを見る検査(ディックス・ホールパイク法)を使っています。
くじ引きで2つに分かれ、片方は手技を1回、もう片方は形だけ似せた偽の手技を受けます。どちらのグループにも、同じ薬が同じ量で処方されています。本人にも、評価する人にも、どちらか分かりません。
1週間後、検査でめまいと眼振の両方が残っていた人の割合は、手技のグループのほうが低い値でした。
はじめの検査で眼振があった人にしぼると、めまいの強さの点数も下がっていました。眼振がなく、めまいだけだった人では、同じようにはなっていません。
元の数字:1週間後、眼振をともなう陽性の割合が手技のグループで低い(p=0.022)。はじめに眼振があった人では、10点の尺度でめまいの強さが−1.73(95%信頼区間 −2.95〜−0.51)、陽性のオッズ比0.09(0.01〜0.92)。評価は1週間後、1か月後、1年後に行われています。
この研究が調べていないこと
対象は後半規管の良性発作性頭位めまい症です。めまいのほかの原因は入っていません。
はじめの検査で眼振がなかった人については、はっきりした差は出ていません。
手技は、訓練を受けた人が行っています。自分で行った場合のことは、この試験では調べていません。
原文:Effectiveness of the Epley manoeuvre in posterior canal benign paroxysmal positional vertigo: a randomised clinical trial in primary care. Br J Gen Pract. 2019;69(678):e52–e60.
doi.org/10.3399/bjgp18X700253(全文が無料で読めます)
家でインターネットを見ながら行う前庭リハビリテーション。6か月後も、めまいの点数が低かった
通う先がなくても続けられるのか、を調べたものです。指導する人はつかず、画面の案内だけで進めます。
- 296人
- 6か月
- 2017年
- イングランド南部の54診療所
参加したのは50歳以上で、頭を動かすとひどくなるめまいのある人です。年齢の中央値は67歳、66%が女性でした。
くじ引きで2つに分かれ、片方はインターネットの自動の計画を使います。前庭リハビリテーションの運動のやり方と、めまいとのつきあい方の工夫(認知行動的なもの)が示されます。もう片方は、いつもどおりの診療です。
めまいは、めまいの症状の尺度(VSS-SF)で、はじめと3か月後と6か月後に測っています。
3か月後も6か月後も、インターネットの計画のグループのほうが、点数が低い値でした。めまいによる日常の困りごとの点数も、同じ向きでした。
回答したのは、3か月後で250人(84%)、6か月後で230人(78%)です。
元の数字:めまいの症状の尺度の差は、3か月後に2.75点(95%信頼区間 1.39〜4.12、p<0.001)、6か月後に2.26点(0.39〜4.12、p=0.02)。めまいによる日常の困りごとは、3か月後に6.15点(2.81〜9.49)、6か月後に5.58点(1.19〜10.0、p=0.01)。研究費は、英国の経済社会研究会議(ESRC)、国立衛生研究所(NIHR)、Vivensa財団から出ています。
この研究が調べていないこと
比べた相手は、いつもどおりの診療です。同じ時間だけ何か別のことをするグループとは、比べていません。
点数を答えたのは本人です。体の平衡の働きを機械で測った比較ではありません。
6か月より先は追っていません。
原文:Internet-Based Vestibular Rehabilitation for Older Adults With Chronic Dizziness: A Randomized Controlled Trial in Primary Care. Ann Fam Med. 2017;15(3):209–216.
doi.org/10.1370/afm.2070(全文が無料で読めます)
26人に平衡訓練。4週間続けられたのは14人だった
日本の耳鼻咽喉科の報告です。効いたかどうかの前に、続けられるかどうかが数字になっています。
- 26人
- 4週間
- 2006年
- 日本
めまいを主な訴えとして潤和会記念病院の耳鼻咽喉科を受診した26人に、平衡訓練(体を動かしてバランスを慣らしていく練習)を行っています。比べる相手のグループは置かれていません。
4週間の訓練を続けられたのは、26人のうち14人でした。半分ほどの人は、続けられなかったことになります。
続けられた14人では、日常の動作を点数にする評価表(156点満点)が、訓練の前の119から、4週間後の140になっていました。
体の揺れを機械で測る検査(重心動揺検査)でも、いくつかの数字が改善する傾向を示しています。ただし、すべての指標が動いたわけではありません。
元の数字:日常生活動作評価表(岐阜大式、156点満点)は119±17.6から140±10.8。重心動揺検査では外周面積と単位軌跡長に改善の傾向があり、単位面積軌跡長は変わりませんでした。
この研究が調べていないこと
比べる相手のグループがありません。時間の経過による自然な変化と、訓練による変化を分けることはできません。
点数が上がったのは、続けられた14人についてです。続けられなかった12人のその後は、この報告からは分かりません。
日常の動作の評価表は、本人が答えるものです。
原文:Effects of equilibrium training in patients with vertigo. 耳鼻と臨床. 2006;52(6):330–337.
doi.org/10.11334/jibi1954.52.6_330(全文が無料で読めます)
この記事に入れなかったもの
読んだけれど、今回は入れなかったものです。
持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)に、薬を使わない方法をあてた11の試験・518人をつなぎ合わせた解析。中心になっているのが神経を刺激する方法で、体を動かす話から離れるため、外しました(J Neurol 2026、doi)。
前庭性片頭痛の人への前庭リハビリテーションを集めた解析。片頭痛という別の入口が要るため、今回は外しました(Headache 2026、doi)。
多発性硬化症の人への前庭リハビリテーションを集めた解析。特定の病気のある人が対象のため、外しました(J Neurol 2026、doi)。
日本語では、前庭リハビリテーションの実際と治療効果をまとめた総説があります。新しい結果の報告ではないため外しましたが、日本での行われ方を知るには読みやすいものです(Equilibrium Research 2024;83(6):503–508、J-STAGE)。
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